ロースター萩原 ホンジュラス訪問記録| Part.5 ホンジュラスのレジェンド生産者たちに会ってきた 編
3月26日(木)〜4月2日(木)まで、ロースターの萩原がホンジュラスへ産地訪問へ!
マガジンでは訪問の記録として、お邪魔したエクスポーターや農園をご紹介します。
すでに今年2回目の生産地訪問。旅のストーリーを何編かに分けてお届けいたしますので、ぜひ最後までご覧ください!
最終日|農園見学
朝から熱心なクオリティーカッピング
この日のモーニングはオムレツと、中南米で定番のケーキ・Tres Leches。Tres Leches=3つのミルク、という意味で、牛乳と生クリーム、練乳がたっぷり使われた甘いお菓子。スポンジの中にミルクソースがひたひたに染み込んでいて、カロリー爆弾を感じました。
SanVicenteのオフィスでは、彼らが新しく買い付け始めているSan Andresエリアのロットを、Angelを中心に朝からQCカッピングしていました。
彼らは意図して取り扱いエリアを広げて会社を大きくしていきたいわけではないそうですが、世界中のバイヤーたちがSanVicenteのコーヒーを買い求めてくる需要に対して、追いつかない供給を確保するため、新しいパートナーを探して取扱量を増やしていっているそうです。
大量のサンプルを管理するQCチーム
この日は生産者訪問の最終日、朝から農園を巡ります。昨日までとはまた違うLos Andesという地区へ。湖からの雲がぶつかる地域にあたり、Santa Barbaraの中で1番雨が多いエリア。そのため乾燥に少し時間かかり、HoneyやNaturalにはあまり向いておらず、Washedを中心に精製が行われているとのことでした。
AngelはQCにあたっているため、この日はArielの案内で農園へ向かいます。道中で昼食用にフルーツを買い込みます。スイカ、パイナップル、バナナ、マンゴー。道すがらにもコーヒーの木が植っていましたが、あまり手入れされておらず放置気味なのだとか。聞けば標高1,000mに満たない辺りでは、コモディティすらも作れなくなってきているそうです。ロブスタでも寒さに弱いため栽培は難しく、ここでも気候変動の影響を感じました。標高約1,400mくらいでコモデティとスペシャルティの境界線を迎えるようです。
THE COFFEESHOPでは昨年初めて買い付けた農園も訪問
Norman Castellanos
まずはTHE COFFEESHOPで去年初めて買わせてもらった生産者、Norman Castellanosのところへ。
Los Andesの町は山に囲まれた尾根沿いに続いていて、両サイドに高い山の斜面を見ながら進んでいきます。町並みは平屋が続いていて、各家の庭には洗濯物がロープに干してあり、子どもと犬が遊んでいるのどかな雰囲気。ところどころお菓子やジュースを売っている商店があります。
Los Andesの町を坂を登るように進んでいくと、次第に家々の庭先にパルパーやパティオが見られるようになってきました。Normanのウェットミルに到着すると、本人が軒先で出迎えてくれました。角刈りに整えられた髪と厚めのメガネ・襟付きのシャツ。見るからに真面目そうな印象で、Simon曰く去年と全く同じ服装とのこと。慎ましい生活が窺い知れます。
Normanの農園では第1収穫が終わったところでしたが、まだSanVicenteにサンプルがなく、カップは取れませんでした。ここでもやはり今年は収量が少なく、去年34BOXあったものが今年は20BOXくらいに減る見込み。精製は、収穫したらその日のうちにパルピング → 一晩発酵層で発酵 → そのあと洗って乾燥台へ。という非常にシンプルなものです。
その乾燥台もとてもシンプルで、簡易なビニールハウス内にアフリカンベッドが並んでいます。通常10日〜2週間くらいかけて乾燥させるそうで、この日はよく晴れていて中がとても蒸し暑かったです。ビニールハウス内が暑すぎると早く乾きすぎてしまうため、逆にこの環境だったら、雨が多く気温が低い今年はプラスの可能性もあるとのことでした。
また、Normanのビニールハウスにはまだ改善の余地も多くありそうでした。天井に黒い網を張る、ハウスの下の方を開けて風を通す、ベッドを2段にするなど、すこし手を加えるだけで乾燥の効率が挙げらそうです。今後の伸び代に期待が持てます。
Normanの農地は2haほどで、栽培しているのはPacasのみ。農園へは車が入って行けず、3頭いる馬を労働力として使っているそうです。最近新しく0.5ha土地を購入、なんの品種を植えたらよいか、SanVicenteと相談中とのこと。こうした生産者の相談を受けるのも、SanVicenteの大事な仕事です。
Normanのコーヒーにはこれまでずっと安定したバイヤーがつかず、苦しいときもあったそうですが、ここ数年でSanVicenteと取引をするようになって収入が改善したようです。ただ、スペシャルティとしての値付けに対する理解があまりできていないらしく、例えば収穫が4回あるとして、最初のロットは84点、残りは86点だとすると、最初だけ価格がかなり低いことになります。彼からすれば同じ労力をかけて作ったチェリーなのに、なぜ安く買われるのかがわからないとのこと。これからもっと話し合って説明していくフェーズにあるみたいでした。
Normanと話してみると、第一印象と変わらず真面目で素朴で慎ましい、農家のおっちゃんというイメージの方でした。彼のコーヒーが何故美味しいのか、その本質的なところはやはりわからなかったですが、彼が丁寧に仕事をしていることは間違いないと感じます。
乾燥棚でパーチメントをトンボを使って撹拌させる様子を見せてくれたとき、「撮影用にポーズしてくれてるのかな」と思い何枚か写真とビデオを撮らせてもらいました。写真を撮り終えたらすぐ作業を止めてまた話し始めるのかなと思いきや、Normanはそのまま5分くらいかけて乾燥棚の端から端まで撹拌作業を続けていました。
また、僕らと話し終え別れたあとも、すぐ横にあったパティオに広げられた、彼のものではないチェリーを手癖のように撹拌し始めた姿も印象的です。他人のチェリーでも、ちゃんと手入れされていないのが気になってしまったのだと思います。真面目さというか、几帳面さが非常に伝わる場面でした。
Normanは新しい農地、新しい品種への取り組みがあり、乾燥棚もすぐに改善できるポイントがたくさんあります。彼の実直そうな生産の姿勢とこれからの取り組みで、より素晴らしいコーヒーが出来上がる期待が持てた訪問でした。Señor Normanのコーヒー、これからも楽しみにしていきたいです!
Carmen Armijo
本日2軒目の農園に移動。Normanの作業場所からまた少し登ったあたりにCarmen Armijoとその家族が住む家があります。
家は広い庭に囲まれていて、可愛らしい飾り付けや観葉植物に溢れ、とても丁寧に整えられた暮らしを感じました。庭先にあるウェットミルには絵も描かれていて、ホンジュラスというよりヨーロッパの田舎の暮らしのように見えます。
農園を案内してくれたのは主にCarmenのお父さん。元々は彼の農地で、Carmenに分け与えたものの実質は彼が今も手入れをしているようです。メインはアボカド農家ですが、こちらも天候不順の影響でほとんど収穫ができなかったそう。
精製は収穫したその日にパルピング → 翌朝まで発酵 → 洗って乾燥台へというこれまたシンプルなもの。乾燥棚には主にPacasとJavaが並んでいました。晴れてるときで8〜10日、曇ってると14日くらいかけて乾燥させるそうです。ここの農園はJavaに定評があるらしく、Geishaに似たフレーバーがあるとのこと。アメリカのロースターが全て買っているようですが、ぜひ飲んでみたい…
Carmenのお家では昼食をご馳走に。チキンの煮込みとライス、トルティーヤ、バナナとカボチャ。チキンはとても柔らかいし、自家製トルティーヤはホンジュラスで食べた中で1番おいしかったです。バナナとカボチャは甘みは少なく、ほとんど芋のような感じ。
そして一緒に出してくれた自家製ジュースがとても美味しかった!庭になっている柑橘、サワーオレンジとマンダリンレモンのジュース。果実だけで食べるとめちゃくちゃ酸っぱい!
Carmenの農園には主にPacasとアボカドが植っていますが、少し木が古い印象。だんだんと植え替えを進めているようです。農地は0.7haしかないうえに、広さのわりに収量も低いとのこと。今年は5BOXとれるかどうかというところという話でした。
ただ、この農園の良いところは非常に植生の多様性に溢れていること。農園のすぐ横まで自然林が迫り、コーヒーとコーヒーの間にも雑草がたくさん生えていました。一見するとあまり手入れがされておらず良くないようにも見えますが、最近の研究ではこの多様性が微生物を育み、コーヒーの生育にいい結果をもたらすと考えられています。
自然林が大切な訳
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例えばサビ病問題。耐性があるとされているハイブリッド品種のParainemaも、だんだんとサビ病になりはじめているそうです。サビ病も菌類なので進化してきていていて、耐性品種を開発して植え替えするのではイタチごっこになってしまいます。
そもそも、なぜサビ病になるのかというと、土壌が弱っていることが1番の原因。土壌を改善することの方が大切で、本質的な解決につながります。
そのために必要なのが、微生物と有機物の多様性。シェードツリーの役割は日陰を作るだけではなく、落ち葉によって土壌の有機物に多様性が作ることにもあります。また、良い菌も悪い菌も殺してしまう農薬を撒きすぎないことも大切。コーヒー生産の本質は農業なのだと改めて実感した場面でした。
Miguel Moreno
Carmenの家を後にして、更に山の上のエリアへと進みます。途中で何人かの生産者と車上から挨拶。みんなMoreno一族の生産者で、この辺りから彼らの生産エリアに入ります。
これから訪ねるMiguel Morenoは一族の最年長で、ホンジュラススペシャルティのレジェンドのひとり。彼の農園La Cedralのすぐ上にはSanVicenteのBenjaminがCOEで2回優勝している農園、La Salsaがある好立地。MiguelとBenjaminは互いに協力し合って生産を行なっていて、2014年から農地を2人で半分ずつ分け合っているとのことでした。農地だけではなく、ウェットミルや乾燥棚も共有しています。
Miguelの農園は4ha。7人兄弟で全員が農園を持っている、古くからのコーヒー一族です。もともとスペシャルティではないコーヒー生産をしていたそうですが、SanVicenteのAngelがSanta Barbaraのマイクロロットに焦点を当てていくにあたって、最初に話を聞いてくれたのがMiguelでした。この地域のスペシャルティに黎明期から関わっている存在です。
農園を訪れたとき、アフリカンベッドに濡れたパーチメントを広げて手選別の真っ最中。この工程をやっている生産者はこれまでいなかったので丁寧な仕事が伺えました。Miguelの息子たちと奥さんが作業にあたっていました。
Miguelと合流すると農園を見せてくれました。ここでもやはり6〜7割の減産で、天候不良と去年大きくカットバックした影響が出ているようです。ただ、今年の蕾のつき方はとても良い感じで、天候が回復すれば来年は増産が期待できるそう。コーヒーの木も葉っぱの付きがよく、元気そうに見えました。
精製は、72時間チェリーをタンクに入れてレスト → パルピング → 48時間タンク内で発酵。比較的発酵時間が長く、かつタンクに入れるのでAnaerobic的です。BenjaminのLa Salsaと同じ作り方だそう。
収穫量に対して乾燥スペースが小さいため、発酵で時間を稼ぐ意味合いもあるとのこと。それでも乾燥棚が空かない場合は、冷たい水に入れて強制的に発酵を止める処理をするそうです。最初聞いたときは「そんなことやってもいいのか…?」と思いましたが、La SalsaがCOEで優勝したときもこの水漬けを12時間やっていたとのこと。これは新発見でした。
SYU・HA・RIでは去年もMiguelを訪ねていて、トラディショナルなWashedを依頼していました。まさにそのロットが棚で乾燥中。Washedは収穫日その日にパルピング → 翌朝まで発酵層 → 3回くらい水を入れ替えながら洗うそうです。昔は基本このやり方をしていたそうで、原点回帰。カップがとても楽しみです!
乾燥には天気が良くて10〜14日、今年は雨が降ったりして30日もかかっているよう。クオリティに大きな影響はないとのことですが、乾燥棚が空かないので量が作れないリスクがあると話してくれました。
ハウスの屋根には黒い網が張ってあり、それだけで室内の温度上昇を防ぐことができます。また、天井に隙間があって風通しが良かったです。先ほど見させてもらったNormanやCarmenのハウスより明らかに涼しく感じ、こういうところからもカップの差が生まれてきます。
Miguelの農園はこの辺りで1番標高が高いエリアにあり、コーヒーの木の状態も非常に良く見えます。Moreno一族で作業をしていることからも、人手もある程度安定していそうでした。昨年までは自分のところまではサンプルすら回ってこなかった生産者でしたが、来年の増産にも期待して、楽しみに待ちたいと思います!
これから是非取り扱ってみたい生産者です
Jobneel Caceres & Alex Caceres
この日、最後に訪問したのはJobneel CaceresとAlex Caceres。Jobneelが所有しているFinca NacimientoはTim Wendelboeと長年取引を続けていることで知られています。これまたレジェンドの1人!
AlexはJobneelの甥っ子で、2025年12月にアメリカから帰国して生産者になったばかり。農地はずっとJobneelが管理していたところを分けてもらった形で、プロセスも同じ施設で行うのでクオリティは期待できます。今年からSYU・HA・RIにオファーしてくれているそう。
2人と話したのは共有で使うウェットミルと乾燥棚があるスペース。農園は別の場所にあり、収穫したチェリーをここに持ってきてプロセスしています。Alexの農園は前日に行ったEl Doradoエリアにあり、前日伺ったVictor PazやAngelのItakayoと同じ区画。萩原の好きなエリアで、実際前日にカップもかなり良い印象でした。
プロセスはチェリーの状態で一晩レスト → パルピングして発酵層へ。発酵層には水を入れて発酵を進めます。これにより温度が下がるので、ゆっくりとクリーンな発酵が進むのだとか。その後水路に流してフローター除去します。この日発酵層に入っていたのはJobneelのGeishaでした。
発酵層のすぐ横にある乾燥棚は、とても大きいハウスの中に広がっています。
乾燥は天気が良い日が続いても10日以上。乾燥ハウスは入口を大きく開くことができて通気性が良く、黒網も貼ってありました。この大きいハウスができたのは去年からで、Jobneel曰くTimが高いお金で継続して買ってくれるからだそう。
Tim Wendelboe とは
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世界ベストロースターに何度も輝いている、世界で1番有名なスペシャルティロースターと言えます。
彼の取り組みは常に一歩先に行っていて、十数年前から産地に深くコミットし、同じ生産者とより良いコーヒーを持続的に作っていくための取り組みを続けながら、取引を行います。Jobneelとの付き合いは17年。Timは農業や発酵、乾燥などコーヒー生産の川上から専門家と一緒に研究を進めていて、先進的な広い知識を持って生産者と向き合っています。
そのため、生産者にかなり口うるさく厳しく言うとのこと。ただ、その代わり出来上がったコーヒーは誰よりも高い値段で買っていくそうです。Jobneelも親しみを込めて「あの口うるさいTimのクソ野郎」と言っていたみたいですが、彼と長年取引を続けていることを心から誇りに思っているようでした。
Timがいま取り組んでいるのが、今回のツアーで何度も話に挙がった土壌改善のプロジェクト。中南米のいくつかの農園と一緒に進めていて、ホンジュラスではJobneelと Angel、El Puenteが参加しています。プロジェクトは去年からスタートしていて、Jobneelの農園では土壌に撒く特殊な菌苗の準備がまだ本格的に出来ておらずテストスタートのような形だったもの、すでにGeishaのスコア2点も上がったそう。土壌のおかげかどうかわからないですが、Jobneel的にもかなり期待しているようです。
このプロジェクトでは毎年一回のフィードバック会が開かれ、中南米各国の生産者が一堂に会す機会が設けられます。そこでお互いの課題や良かったところを共有して、この先10年かけて農法として確立していきたいのだとか。Tim Wendelboe、先を行きすぎています。
Jobneelは自分がTimとそうしてきたように、生産者として走り出したばかりの甥のAlexにも、パートナーとなるロースターと出会ってほしいと思っているようです。そのために非常に時間をかけていろいろな話をしてくれました。(熱量の強い人で、1時間半ほどひとりで喋り倒していました)
私たちがどこまでそうした取り組みができるのか、難しい部分も多いですが、特定の生産者と繋がってともにコーヒービジネスを続けていくこと、その頂点みたいなものを見せてもらった気がします。Timのやり方は間違いなくスペシャルティコーヒーのビジネスとして理想的だと思いますが、同時にみんながみんなTimのようなスケール感で動けるわけではありません。学ぶべきところを学び、それぞれの環境においてできる限りのことを続けていく。
コーヒーの仕事は生産者がいないと成り立たない、そのために生産国と消費国とで協力してビジネスを続ける。そのことを決して忘れず、自分にできることを模索していくためにも、産地訪問を続けていく意義があるように感じました。
次回に続きます!
今回はここまで!
次回はいよいよ総集編として、今回の訪問で萩原が感じた感想・今後の課題に感じた部分をお話しできればと思います。
ずっと会いたかった生産者、ホンジュラスのレジェンド達、力を発揮しようとしている若き生産者。今回の訪問では本当に知見を広げさせてもらいました。総集編をお楽しみに!
生産者Carmenの家にいた生後20日のワンコ
きゃわわ
WRITER
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Daito Hagiwara
THE COFFEESHOPロースター
THE COFFEESHOPにて取り扱うすべてのコーヒー豆の仕入れと焙煎・クオリティコントロールを担当。日々焙煎の研究とコーヒー豆の品質チェックを行う。2024年 Next up Roasting Championship優勝。2025年 焙煎競技会 ROAR OF THE ROAST 2025 優勝
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