プロに聞く!コーヒー生産国と品質|スターカッパー 松元啓太氏 インタビュー vol.1

2018.12.06
SHERE

スペシャルティコーヒーの品質保持に欠かせないカッピングのプロフェッショナル・松元啓太氏。2019年はCOE審査のためホンジュラスに出向かれるなど、評価における最前線でご活躍されています。そんな松元氏に、スペシャルティコーヒーの生産国について伺いました。

松元啓太氏 プロフィール

大学卒業後、ワタル株式会社入社。

一旦退職し、コスタリカで単独で1年 国立コーヒ協会Icafeで過ごす。

帰国後、ワタル株式会社へ再入社。駐在員としてグァテマラに4年間赴任する。

2002年にグァテマラにて STAR CUPPER のプログラムに参加し、2005年にはCQI認定Qグレーダー資格を取得。

現在はスペシャルティコーヒーの卸販売を担当する一方、COE(カップオブエクセレンス)運営団体ACEの役員を兼務。

Q:

早速ですが、まずはご経歴とお仕事について伺っていきたいと思います。

コスタリカから帰ってきてすぐグァテマラへ行かれたということですが、どのようなきっかけだったのですか?

松元氏:

コスタリカから帰国した時は、ちょうど会社がスペシャルティコーヒーへ大きく舵を取ろうとしていたタイミングでした。それで、現地駐在員としてグァテマラへ行けるチャンスがあったため「よし、行こう」と。そこから四年間はグァテマラでした。

現地ではカッピング、買い付けのサポート、農園の方のとコミュニケーションをとってコネクションを一から作ったりなど、多くの経験をさせてもらいました。

グァテマラから帰国後も、生産者とのやりとりや買い付けを主に行なっています。生産者から直接仕入れて、それをお客様に紹介するというのが仕事ですね。

グァテマラでの経験|スターカッパーへの参加

スターカッパー、Qグレーダー、カッピングジャッジなど、スペシャルティコーヒー品質評価に関わる重要な資格をお持ちの松元氏。グァテマラでの経験をもっと教えていただきましょう。

松元氏:

品質評価資格には、Qグレーダーやコーヒーマイスターなど複数ありますが、Qグレーダーの礎となったのが、2000年代前半に行われた、生産国の発展・開発プログラムです。スターカッパーというと資格名と思われてしまうのですが、そのプログラム自体がスターカッパーです。

ご存知の通り、生産国というのは決して裕福ではありません。今でこそ発展してきていますが、基本的にコーヒー農家というのはローテクです。その産地に入っていって、より良いコーヒーを作って、より高い価格で流通していこうというのがスターカッパーのミッションでした。

Q:

実際にどのようなことが行われたプログラムなのですか?

松元氏:

生産国には品質管理を行う『カッパー』と呼ばれる人たちがいるのですが、パナマ、グァテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、コスタリカ、ニカラグアの6カ国からカッパーを10人ずつ選抜して、技術指導を行うわけです。

その土地を回りながら授業を開き、コーヒーのことを教える。今月はマーケット、来月は焙煎、その次はテクノロジーという感じで。受講したカッパーは、コーヒー産業全部の仕組みをわかった上で、今度は自分たちが生産者の指導を行う立場になり、産地の品質を向上させていくという流れを作るわけです。

Q:

松元さんはそこに参加したというわけですね。2000年代前半のプログラムから、現代のスペシャルティコーヒー発展に繋がっていると思うと、かなりのスピード感ですね!

松元氏:

私はグァテマラのメンバーとして入れてもらいました。日本人なので、おそらく特例だと思います。

スターカッパーは、現在のCQI認定Qグレーダーの礎となったプログラムと言えます。実際に行われたのは2002〜2004年で、その後初めてQグレーダー認定試験が行われたのが2005年ですから。私はそこでQグレーダーになったわけですが、スターカッパーは間違いなくコーヒー産業の発展に大きな影響を及ぼしたものだと思います。

スペシャルティコーヒーブーム

美味しいものを作るからきちんとした報酬が得られるということを教育していく。それを先駆け的に取り組んできたスターカッパー。それまでは生産者も自分たちで作っているコーヒーの品質評価ができず、搾取されてきた歴史もあるようです。サードウェーブと呼ばれる近年のスペシャルティコーヒーブームについて伺ってみました。

松元氏:

スペシャルティコーヒー業界の盛り上がりは年々すごくなってますよね。先進的な技術もどんどん出てきています。産地や生産処理の人たちも、試行錯誤で新しいものを生み出そうとしています。

先日ニューギニア行った際も、オーソドックスな技術指導を行なったのみで、新しい取り組みに関してはノータッチ。基礎となることをしっかり行い、欠点のないように整えてさえあげればOK。生産者としてもそれくらい積極的にチャレンジできる状態になっています。

また、最近ではお客様側(販売店や消費者)から希望いただいて、それに合う豆を探すというケースも増えてきています。これもブームによって、スペシャルティコーヒーの知識を持つ消費者が増えてきている証拠ではないでしょうか。

Q:

需要が多くなおかつ多様化していることで、生産者も今後増えていく予感ですね。ますます買い付け先を探すのが大変になるのではないでしょうか。

松元氏:

昔は地図を見ながら自分の好きなように探して回ってましたが、いまはオークションやCOEがあるので、実は情報源が豊富です。そういう意味では、イチから探す必要がなくなったため便利にはなりました。

しかし、最終的には現地の人と繋がらないと買えないのがスペシャルティコーヒーです。そこで必要とされる努力は今も昔も変わらないですね。

変化する生産者の意識

スペシャルティコーヒーを先導に、自然環境や生産環境を守るような産業作りをしていこうという流れができています。COE(カップオブエクセレンス)もその流れであり、生産者はそれに合わせて作ることが収益に繋がるようになっています。

Q:

こうした好循環の中でも、将来的に心配されることはあるのでしょうか。

松元氏:

たしかにCOEなどの普及によって、生産者は高く買ってもらうにはどうすればいいかを考えるようになり、その結果自然環境や生産環境がより改善される流れにはなっています。しかしながら、隣の芝はなんとやらで、オークションで高値が付いた事例が身近であったりすると、次は自分がと意気込んで農地を大きくしてしまうこともあります。当然借金をして増やすわけですから、注意が必要です。

また、品質の良いものが増えて、美味しいコーヒーの入手が容易になってしまった場合、コモディティ化して価値が下がるのではという懸念もあります。これは需要と供給の原理・バランスが崩れることで現れる結果ですから、流通に関わる我々仕事人たちが、どこかに負担がかかったタイミングでしっかり調整をかけていく努力を怠らなければ起こらないこととも言えます。

vol.2へ続く

というわけで、vol.1ではスペシャルティコーヒーの品質評価や技術指導が、生産者をはじめとする業界全体に与えている影響などについて、教えていただきました。

歴史やストーリーが色濃くわかるリアルなお話、ありがとうございました。

次回 vol.2 では、THE COFFEESHOP スタッフのこれまた濃い質問にお答えいただきましたので、その様子をお届けします。

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THE COFFEESHOP

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