エルサルバドルにてCafe Norのドライミル見学|グァテマラ・エルサルバドル買付旅行記【vol.5】byロースター萩原
3月18日から10日間、TYPICA Labのメンバーとして、グアテマラ・エルサルバドルにコーヒー豆の買付に行ってきました。
エルサルバドル滞在1日目はCafe Nor(カフェノル)のドライミルを見学します。
エルサルバドル滞在1日目。気持ちの良い朝でスタート
昨晩は0時過ぎにMetapanにある宿につき、用意してくれていた夕食を食べ、部屋に入った。今日から3日間滞在する宿は3人部屋で、Regolith Coffee浅井さんとFINETIME近藤さんと同室。(部屋のシャワーはかなり渋めな仕上がりで、水しか出なかった…。)
翌朝は7時に起床。夜に宿についたときには暗くてわからなかったが、青々とした緑に囲まれた気持ちのよいヴィラだった。
モーニングコーヒーはAlejandroが用意してくれていたパカマラとブルボンで、バリスタがケメックスを使って淹れてくれた。フルーティな甘さがあってとても美味しかった。
MetapanからCafe Norのドライミルへ向かう
El SalvadorではAlejandroや彼のところでコーヒーの精製をしている生産者さんが車を出してくれ、何台かに分かれて移動する。今朝はAlejandroの車に乗せてもらった。
道中、昨年初めて日本を訪れたAlejandroにその感想を聞くと、「世界にこんなに整備されて、あらゆるシステムがきちんと稼働しているところがあるなんて驚いた」と言っていたのが印象的だった。逆にいうと、彼の暮らすここEl Salvadorは、まだまだカオスで荒削りな部分がたくさん残っている国なんだ、ということがよくわかった。
出発したMetapan近郊は標高800mくらい、今日向かうCafe Norのドライミルは標高1,350mあたりにある。途中から山道は舗装されなくなり、もはや当たり前のものとして受け入れられるようになったガタガタの道を揺られる。
車窓の景色は昨日までいたグアテマラとは少し違っていて、地面がかなり乾燥していて車が通ると土埃が舞い上がった。
気温もかなり高く感じ、同じ中米、隣の国であってもここまで違うものか、と思った。それは育つコーヒーの味わいも変わるわけだ。
道中、Alejandroがドライミルへ持っていく水のボトルをピックアップするために立ち寄った食料品では、コーヒーの生豆がビニール袋に入れられて売られていた。さすがコーヒーの生産国、各家庭でも生豆を買って自宅で焙煎するらしい。
Cafe Norのドライミル見学
ドライミルに到着したのは10時前。出発するときには40分で着くと聞いていたが、結局1時間半くらいかかった。もはや驚きもない。
到着したCafe Norのドライミルは、山の林の中にコーヒーを乾燥させるベッドが並ぶ、素晴らしい景観の場所だった。日差しは強かったが木陰は涼しく、山の上らしい爽やかで心地よい風が吹き抜けていた。道中に比べて地面は水分をたっぷり含んでいる。
あとで聞くと、この辺りには精製の水源となる川や湧水が多く、それもこの場所にドライミルを作った理由の一つなのだという。
小高い尾根のところにはCafe Norのオフィスとカッピングルーム用の小屋が立っていて、すぐ横の崖に面してウッドデッキが拵えてあった。当初、今回のLabを迎えるにあたってこの場所でグランピングで宿泊する予定だったそうで、実現できていたら最高だっただろうな、と思った。
ここはCafe Norの歴史が始まった場所。27の生産者と取引することから始まったCafe Norは、わずか3年足らずで100以上の生産者のチェリーを取り扱うようになったのだという。
事業を始めた3年前はちょうどコロナパンデミックが始まったタイミング。設備を作るためのお金を支払っても、肝心の物がしばらく届かないなどの苦労を経て、順調に拡大している。
この場所にドライミルを作ったもうひとつの理由は、できるだけ生産者に近い場所で精製を行うためだという。もっとも近い農園でわずか500m先、遠いCharatenangoでも約50kmほど。そこまではこちらからチェリーを受け取りに行くこともある。もちろんドライミルはもっと街の方に作ることもできる。しかし、できるだけ生産者の負担を減らし、クオリティのためにより新鮮なチェリーを持ってくるために、この場所を選んだのだという。
ここでは二手に分かれて、まず僕たちのグループはAlejandroがドライミルを案内してくれた。
生産者から集められたチェリーはまず水の入ったプールに入れられて比重選別にかける。ここで使った水はポンプで循環させて再利用される。これはグアテマラのドライミルでも行われていた、水を無駄に使わないための工夫だ。また、ウォッシュドの発酵もグアテマラと同じく水をなるべく使わないドライファーメンテーションで行っている。
パルパーの横にはアナエロビックプロセスを行うプラスチックタンクが並ぶ。今年から実験的に導入しているそうだ。
ここでは随所に環境に対する配慮がなされている。パルプはパーチメントやミネラルと一緒に混ぜ合わせ、ミミズの力を借りて堆肥を作っている。まだまだ作れる量は少ないそうだが、オーガニックな肥料として各農家へ提供しているそうだ。見せてもらった堆肥はフルーツと土が混ざったような香りがした。
また、ウォッシュドプロセスの過程で排出されるミュシレージが混ざった排水も、そこからメタンガスと肥料を作る計画もあるらしい。Alejandro曰く、コーヒー生産で発生するすべてのものは、捨てることなく活用できるようにしたいと考えているそうだ。
さらには、パーチメントの除去と選別を行うドライミルの機械設備は100%太陽光エネルギーで稼働している。1日の日照量に合わせて機械を動かすタイミングを変え、余った電力は蓄電池に蓄えて運用している。
選別工程の最後には人の手を使って欠点を丁寧に取り除いていた。
すぐ横にはコーヒーの苗木が並んでいる一角もあった。パカマラをはじめ、パカスやブルボン、ゲイシャなどポテンシャルの高い品種ばかり。これらの栽培と生産者への提供も行なっている。
全てのドライングベットには札が貼ってあり、生産者の名前や収穫日、エリア、プロセスなどの情報が記載されている。
乾燥はベッドの1番下の段から始め、順番に上に上げていき、30~40日かけて乾燥が行われている。場所によってはベッドの真ん中を貫くように元々合った木が生えていた。これは元あった森をできるだけ崩さないようにベッドを組んでるからだという。最初はたった2つから始まったというドライングベッドも、いまでは遠くまでところ狭しと並んでいた。
ドライングベッドもそうだが、その他の設備も含めて、できるだけ木を切らずに自然を守れるよう、計算し尽くされた設計がなされており、森に沿って施設が造られている。このCafe NorのDry Millは『CARBON NEGATIVE MILL』、つまり排出する二酸化炭素量よりも、自分達の森が吸収する量の方が多くなるように運営されている。
そのために木の樹齢や種類などを調査し、切っていい木、守るべき木、どこに道を作るか、などを計算。さらには排出量を把握するために、工場で出る二酸化炭素量はもちろん、どの生産者がどんな車に乗っていて、何km走ってチェリーをもってくるか、まで把握しているそうだ。
Alejandroが語ってくれたことで特に印象的だったのは、「自分たちの土地は恵まれた標高や水源、土壌があり、美味しいコーヒーが作れることはある程度わかっている。今はそれをいかに後々の世代まで継続させられるか、にフォーカスしている」という話だった。
グアテマラでも感じたことだが、彼らの環境に対する考え方、取り組み方は、日本とは良い意味でギャップがあるように感じた。根幹が農業であるコーヒー生産において、環境問題はクリティカルな課題としてすぐそばにある。こういう人たちからコーヒーを買いたい、と素直に思わせてくれる。
CafeNorのコテージでカッピング
ドライミルを見学したあとは、尾根にあるコテージ風の小屋でカッピング。実際に買付オファーを出すロットを選んでいく。
El Salvadorを代表する品種であるパカマラや、パカス、ブルボンなどのコーヒーが並ぶ。
特にパカマラはさすがのクオリティで、鮮やかなアシディティと素晴らしいクリーンカップが印象的だった。
ついさっき見せてもらった整然とした精製の現場と、実際のカップクオリティの洗練された美味しさが素直に結びつく、得難いカッピング体験だった。
チェリー乾燥棚のすぐ横でランチ
カッピングの後はドライミルの一角にケータリングを手配してくれみんなで昼食。
CafeNorのコーヒー生産を行っている小規模生産者さんとのミーティング
昼食のあとはドライミルの近隣でコーヒー生産を行う生産者さん達が集まってくれ、話を聞くことができた。先ほどのカッピングで並んだコーヒーを作っている人たちだ。
彼らは多くがスタッフを2~10名程度かかけ、生豆で年間1,800kg程度生産しているという比較的小規模な生産者たちだった。コーヒー生産だけでは生計を立てられないため、トマトやレモン、豆なども一緒に栽培している。
最初はお互いに少し緊張感のある雰囲気だったが、「日本のことはどのくらい知っていますか?」と聞いたところ、「ラーメンが美味しい!」と笑いながら話してくれ、一気に和やかなムードになってくれた。
彼らの話の中で印象的だったのは、「私たちのコーヒーを評価しててありがとう」というものだった。奇しくもグアテマラで出会ったFredyと全く同じ話だ。やはりどんなに品質の高いコーヒーを生産しても、国内のマーケットではお金にならず、コモディティとして売ることしかできないのだという。
日本のような消費国がEl Salvadorのコーヒーをスペシャルティとして評価し購入することで、彼らの暮らしにダイレクトに影響するんだと改めて実感した。
自分の仕事であるスペシャルティコーヒーを焙煎して売るということ、そのことが生産者の生活にどのように影響するか、もちろん話では知っているし理屈も理解していた。
ただ、実際にコーヒー生産で生活している小規模生産者さんたちと会って話をすることで、そのことが急激に実感となって押し寄せてきた。
それはきっと生産国に来ないことには得られない感覚だったと思う。このとき自分のなかに芽生えた想いは、一生忘れられないものになるに違いない。
この日の夕食もAlejandroが手配してくれたディナーを食べ、Metapanの宿へと戻る。
明日もまた車に乗り、今度はCharatenangoの農園を見せてもらう予定。旅の疲れも溜まってきた頃だが、それ以上に得られるインプットの多さに喜びが追いつかない。
部屋に戻るとベッドの上に何かのフンが散乱しているが、気にせずすぐに布団に潜り込む。明日も楽しみで仕方ない。
WRITER
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Daito Hagiwara
THE COFFEESHOP ストアマネージャー・ロースター。
THE COFFEESHOPにて取り扱うすべてのコーヒー豆の仕入れと焙煎・クオリティコントロールを担当。焙煎技術を競う大会であるローストマスターズチームチャレンジ2018に関東Aチームとして出場、優勝。 日々焙煎の研究とコーヒー豆の品質チェックを行う。
毎週水曜日21:00〜Instagram、YouTube、Xスペースでライブ配信中!
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