Monthly Beans Magazine｜2022年12月号 [vol.99]

夏から秋、秋から冬と季節が進むにつれて、「コーヒーが美味しい季節になってきました」なんて言葉をよく耳にしますよね。

確かに肌寒い日に飲むホットコーヒーの美味しさは格別ですが、コーヒーの抽出や成分ついてより詳細に考えてみると、そう単純でもない事情が見えてきます。

冬に抽出したコーヒーについて、もしかすると「フレーバーを感じづらい」と感じたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実際、仮に夏と全く同じコーヒー豆を同じレシピで抽出した場合、その仕上がりが変わることが少なからずあります。

その理由のひとつには、水道水の硬度の変化が挙げられます。あまり知られていないことですが、水道水の硬度は季節によって変動します。

例えば令和3年の東京・渋谷区でいうと、降雨量が多い4〜6月の硬度が51.9だったのに対して、10〜12月の硬度は79.9。半年の間に30度近くも硬水に寄っているのです（東京都水道局の調査より）。

以前、YouTubeでも検証動画をアップしたのですが、硬水を使って淹れたコーヒーはフレーバーや酸味を感じづらく、やや曇ったような味わいになりやすい傾向があります。

軟水器などを使って硬度調整しているならまだしも、普通の浄水器では硬度に変化はないので、自宅で淹れたコーヒーのフレーバーが感じづらくなった、というのはあながち気のせいではないのです。

また、季節の変わり目は焙煎にとっても大変な時期。特に夏から秋にかけては、気温はもちろん湿度や生豆の保管温度、気圧の変動が大きく、焙煎環境が日によってかなり変わってきます。

その時々に応じた焙煎アプローチの変更や環境の調整が必要になるため、うまく行かないときには出来上がりの味のブレにも繋がってしまいます。逆にいえば、季節の変わり目にも安定して美味しく焙煎できるロースターは、腕のあるお店だとも言えるかもしれませんね。

と、いつものように理屈っぽいことを述べてきましたが、実際には大半の人が「秋冬の方がコーヒーが美味しい」と感じているのもまた事実。

ということは、美味しいコーヒーに必要なのは細かいメソッドよりも、飲む本人の環境や体調に依るところが大きい、と言えるでしょう。

『空腹は最良の調味料』という言葉もありますが、コーヒーにとっても同じことが言えるかもしれません。そう考えると、今日も美味しいコーヒーが飲めている自分の環境に、少し感謝したい気持ちになってきます。

理屈ではない部分で、自分にとって一番美味しいコーヒーは何なのか、考えてみるのもたまにはいいかもしれませんね。

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