エルサルバドル2日目|グアテマラ・エルサルバドル買付旅行記【vol.6】byロースター萩原
3月18日から10日間、TYPICA Labのメンバーとして、グアテマラ・エルサルバドルにコーヒー豆の買付に行ってきました。
エルサルバドル2日目は、北部の生産地Charatenangoへ。
いよいよ旅の終盤。旅行記も今回で完結となります!
エルサルバドル滞在2日目。Metapanから車で2時間半、北部の生産地Charatenangoへ
今日は滞在しているMetapanから車で2時間半、エルサルバドル北部の生産地Charatenangoを訪問する。朝は7時半に宿を出発し、今日もAlejandroや彼の元で働く小規模生産者さんたちの運転するピックアップトラックに揺られ、一路Charatenangoを目指す。
エルサルバドルの気候はグアテマラよりもさらに暑く、ジリジリとした日差しがかなりキツく感じる。この日の予想気温は35℃まで達する見込みだった。途中、トイレ休憩に立ち寄ったガソリンスタンドに併設の食料品店で、アイスを買ってみた。
冷凍ショーケースの中にはイチゴやパイナップルのアイスも入っていたが、ここはひとつ現地ならではのフレーバーを食べてみたいと思い、味の想像がつかないパッケージを選ぶ。
『MANGO』という文字、黄緑色のパッケージから爽やかで甘い味をイメージして一口かじってみると、凄まじくしょっぱい!そしてあとからピリッとした辛味もある。想像からほど遠い味にかなり面食らった。
あとで聞くと、気温の高いエルサルバドルでは、塩分補給のためにグリーンマンゴーに塩と唐辛子をかけて食べる文化があるらしい。どうやらそのフレーバーのアイスだったようだ。現地ならではの味を食べてみたい、という思惑どおりではあるが、なかなか衝撃的な味だった。
そこからさらに車を走らせ、11時ごろCharatenangoに到着。途中から山道をぐんぐん登って、見晴らしの良いところで車を降りると、さっきまでと打って変わってかなり涼しく快適な気候だった。
この写真をとったあたりから、今日訪問する農園まではあと数キロというところ。道中の車窓には、住居の庭でコーヒーの乾燥を行っている風景を見ることができた。コーヒー生産を仕事にしている人が多く住んでいるようすだった。
同時に、この辺りから一段と道が険しくなった。荒れた道に強いはずのピックアップトラックでさえ、急な坂道を何度も立ち止まりながら進む。正直アトラクション気分で楽しみながら乗っていたが、生産者さんたちにとってはこれが日常の生活道路なのかと思うと、複雑な気持ちになった。
Fredyの農園を視察
農園の入り口まで到着、ここからあと800mというところで、車から降りて徒歩で目的地に向かうことに。ここから先はAlejandroたちでさえ車では行きたくないほどの、さらに急激な坂道になる。写真では伝わりそうもないが、手すりが必要なくらいの道のりを、足を滑らせながら慎重に下っていく。
途中、ここの農園主であるFredyさんと合流。僕らが尻餅をつきながらやっと進んでいる道を、当たり前のように平然と下っていた。
道の脇にはところどころコーヒーの木が植っていて、パカマラ種の区画はちょうど開花のタイミングだった。
嗅ぐと、まさしくジャスミンのように華やかで爽やかな香り。コーヒーフラワーの香りはグアテマラでも嗅がせてもらったが、ここのパカマラ種の香りが一番鮮烈で印象的だった。
20分ほど坂道を下っていくと、山の中腹の開けたところにチェリーの乾燥棚が広がっている場所に出た。風が気持ちよく、チェリーの発酵したワインのような芳醇な香りが立ち込める、とても気持ちの良い場所だった。
このFredyの農園は標高1,600〜1,700m、6haの敷地でパカマラ、ブルボン、パカス、ゲイシャを栽培している。中でもパカマラは、そのほとんどをナチュラルプロセスで精製している。あまりにも山の中にあるため、パティオを作るスペースがなく、建造資材となるコンクリートを運ぶこともできないため、ベッドでの乾燥を行っているそうだ。実際に通ってきた道のりを思い返すと確かに納得できる。
生産量は年間3,500kgほど、昨日会った小規模生産者たちの倍くらいの規模感だが、それほど多いというわけでもないらしい。限られた土地で量を増やすには限界があるため、品質を上げることが収入を増やすためにはまず大切になる。そのためにゲイシャなどポテンシャルの高い品種を植え、嫌気性発酵にもトライしているという。
特にゲイシャ種はここの土地に合っているとのことで、88〜89点くらいのスコアが見込めると言っていた。今回の買付オファーには残念ながら載らなかったが、今後のオファーに期待したい。
「乾燥中のチェリーを食べてみていいよ」とのことで、口に含んでみる。ドライフルーツらしいしっかりした甘さで、レーズンや黒糖、チョコレートのような味がした。パカマラとブルボンを食べ比べてみると、パカマラの方が甘さが強く、ブルボンは味が薄くすっきりした印象だった。コーヒーの味とチェリーの味が、それぞれ対応しているようなイメージで、産地ならではの体験だった。
来る途中、道すがらにチェリーの乾燥をしている家が多くあったが、この辺り一帯にはやはりコーヒー農園が多く、その数は把握しきれないほどで、軽く1,000以上だという。見渡す限り青々とした緑が広がっていて、水が豊富で植物が育つのに良い環境だということがよくわかる。
ここCharatenangoはCOEでの入賞数も多く、エルサルバドルでも有数のコーヒーゾーンだと話には聞いていたが、こうして足を運んでみると素晴らしい土地だということが肌で感じられた。ただ、同時に非常に険しい立地ということもわかる。ほとんど垂直な崖みたいなところにもコーヒーの木が植えられていて、ロープを腰に巻いて作業する必要があるそうだ。実際に事故もあるそうで、まさしく命懸けでコーヒー生産が行われている。そうした仕事に支払われる報酬としては、コーヒーの価格はあまりにも安すぎるのでは、と思ってしまった。
生産者さんたちとランチディスカッション
Fredyの農園を見せてもらったあとは、足を滑らせ下ってきた急勾配の坂道を、今度は登っていくことになる。そんな坂道でさえ、Fredyの運転するトラックは悠々登っていく。
もと来た山道を近くの集落まで戻る。のどかな村あいの一角に、空き地のようなスペースがあって、昨日と同じように地域の生産者さんたちが集まってくれていた。このスペースは繁忙期にはチェリーの乾燥棚を広げられるようになっていて、いまの時期はバラしておいてあるようだ。
これもまた昨日と同じようにAlejandroがケータリングを手配してくれていて、みんなでランチを食べ、食後にはまた地域の生産者さんたちとディスカッションの機会を作ってくれた。
Charatenangoの生産者さんたちも、Cafe Norのドライミルでお会いした方たちと同じく、はじめはみんなシャイな印象だったが、自己紹介をしたり話をしていく中で少しずつくだけた雰囲気になってくれた。集まってくれた生産者さんたちは農園の規模や生産量などは様々だったが、みんな共通しているのはCharatenangoという土地と自分たちのコーヒーに誇りを持っている、という印象だった。彼らの多くは親から農園を受け継いでいて、自分たちの子どもにも引き継ぎたいと考えている。
Fredyの農園もそうだが、限られた広さで作れるコーヒーの量には限界がある中で、そのクオリティには自信を持っている。どんなコーヒーが求められているか、どんなコーヒーを作って欲しいのか、ということを聞いてくれたのが印象深かった。
また、特に胸に刻まれたのが「長く付き合っていくパートナーとなるロースターと繋がりたい。結婚相手を探すように、そういう相手との出会いを求めている」という言葉だった。
正直、これまで特定の生産者と長くパートナーシップを築くということについて、あまり現実的に考えたことはなかった。ただ、『持続可能なコーヒービジネスを探求する』という今回のTYPICA Labのテーマにしてもそうだが、やはりあまり安定した収入を得られるわけではないコーヒー生産という仕事にとって、消費国とのパートナーシップを築くことはとても重要なことなんだと、改めて実感した。
昨日カップして選んだロットの生産者、Joseさんと
今回Cafe Norのラボでカップさせてもらったサンプルの中で、特に良いと思ったのが一緒に写真に写っているJose Arnuifo Montielさんのコーヒーだった。
彼の農園のパカマラ種は、ナチュラルとウォッシュド、2つのロットをリクエストさせてもらった。
彼は集まってくれた20人ほどの生産者さんたちとのディカッションの中でもたくさんの発言をしていて、地域のリーダー的な雰囲気のある人だった。
「あなたのコーヒーは素晴らしかった。日本のコーヒー好きのみなさんに、ぜひ紹介させてほしい」と直接話せたことは本当に嬉しかった。これから先、継続して購入していきたいと思ったし、またCharatenangoに帰ってきて話をしたい、と思った。
旅の終わり
このCharatenangoへの訪問をもって、今回のTYPICA Labでのファームビジットは終了となる。グアテマラから続いてきた数日間の旅の中で、新しい発見と気づきと学びと、凄まじい量のインプットを得ることができた。この数日だけで感じられたことがたくさんあるし、その反面もっと長い時間をかけて腰を据えて、産地での生活を体験したいとも思った。コーヒー業界の諸先輩方が足繁く産地に通う理由がよくわかった。
今回のブログ更新は、その中で感じたことをできるだけ保存できるように、また読んでくれた方にシェアできるように書かせてもらったつもりだ。きっと産地に行かないと感じられないことはたくさんあるけれど、自分が得た感覚を、言葉とコーヒーに乗せて伝えていくことは、産地に行かせてもらった自分の義務のように感じている。
きっとまた僕は今回の旅で出会った人たちに会いにいくと思う。願わくば今よりも少しでも多くの生豆を買えるようになって、持続可能なコーヒービジネスの実現にもっと貢献できるようになって、彼らに会いにきたいと思った。
最後に、今回の旅を企画してくれたTYPICAのみなさん、迎え入れてくれた産地のみなさん、楽しい旅にしてくれたLabメンバー、快く送り出してくれたTHE COFFEESHOPスタッフのみんな、心配しながら待っていてくれた家族に、心から感謝いたします。本当にありがとうございました!
WRITER
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Daito Hagiwara
THE COFFEESHOP ストアマネージャー・ロースター。
THE COFFEESHOPにて取り扱うすべてのコーヒー豆の仕入れと焙煎・クオリティコントロールを担当。焙煎技術を競う大会であるローストマスターズチームチャレンジ2018に関東Aチームとして出場、優勝。 日々焙煎の研究とコーヒー豆の品質チェックを行う。
毎週水曜日21:00〜Instagram、YouTube、Xスペースでライブ配信中!
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