Monthly Beans Magazine｜2022年6月号 [vol.93]

先日、とある機会がありまして、『ストロングホールド』という焙煎機を見せていただきました。この名前、コーヒー業界の方でも聞いたことがないという方も多いかもしれませんが、実は焙煎の世界大会のサンプルロースターとしても使われている焙煎機なのです。

ストロングホールドのユニークな点は、熱源の種類を操作できるというところです。そもそも焙煎という作業は、生豆に熱エネルギー（カロリー）を加えて、美味しい状態に変化させる、という工程です。この熱エネルギーには通常3種類あり、

電動熱（熱を持ったものと接触することで伝わる熱。焙煎機の場合、主に熱されたドラムと生豆が接するときの熱を指します。）

対流熱（風や水など、対流する流体を通して伝わる熱。焙煎機の場合、主にドラムの中を通過する熱風によって与えられる熱を指します。）

輻射熱（熱源から放射される電磁波によって伝わる熱。赤外線や紫外線、X線など。）

通常の焙煎機の場合、構造上、伝導熱と対流熱がほとんどを占めます。例えば、僕らの使っているPROBATという焙煎機では、回転するドラムの下にガスバーナーのような熱源があり、ドラムを温めつつ中に空気を通し、ドラムと生豆が接する熱（伝導熱）とドラム内を通る熱風（対流熱）によって焙煎を進めていきます。

対してストロングホールドは完全電気式の焙煎機で、主に熱風とハロゲン灯を熱源としています。ハロゲンというのは家庭用のストーブなどにも使われている熱源ですが、そのエネルギーは輻射熱に含まれます。この輻射熱はガス火式の焙煎機にはほとんど含まれない熱源です。

また、ストロングホールドでは通常の焙煎機では制御するのが難しいドラム内部の表面温度もコントロールできるそうで、熱源の割合としては少ないですが伝導熱も操作可能。

つまり、焙煎に使用する3種類の熱源を自由に電子制御することができる、という機能を持っているのです。熱エネルギーの伝わり方が変わると、当然豆の変化の仕方も違ってきます。特に輻射熱の場合、他の2種の熱源よりも豆の内側に直接熱を届けることができると考えられるので、他の焙煎機とは違った仕上がりになると思われます。熱源の種類を操作できるという機能は、他の焙煎機にはないユニークな部分で、これによって新しい焙煎のメソッドが作られる可能性を秘めていると思います。

焙煎に従事している人でないと、この面白さは伝わりづらいかもしれませんが、僕はとても興味深く考えています。先日ストロングホールドを見せていただいた際には機能の説明をしていただいただけだったのですが、実は実際に焙煎しに来ませんか？というお話もいただいています。普段PROBATで焙煎しているコーヒーが、ストロングホールドで焼くことでどう変わるのか、とても楽しみにしています。面白い結果が出たらまた報告させていただきますので、どうぞお楽しみに！

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