La Colina農園へ|グァテマラ・エルサルバドル買付旅行記【vol.3】byロースター萩原

2023.04.28


3月18日から10日間、TYPICA Labのメンバーとして、グアテマラ・エルサルバドルにコーヒー豆の買付に行ってきました。
グァテマラ滞在3日目はLa Colina農園へ。

今回の旅のテーマ

昨晩Antiguaのホテルに着いたあとすぐ、今回のLabメンバーと改めての自己紹介を兼ねて、ホテルの屋上のスペースをつかって”Check in”という会が開かれた。お互いのお店や経歴について簡単に話したあと、今回の旅のテーマを一人一人発表していく。

僕の今回の旅のテーマは、”稼げるロースターになるためのヒント探し”。”稼ぐ”というのは決して下品な意味ではなくて、コーヒービジネスを持続的に発展させていくために、きちんと売上を上げていく、ということだ。

今回の旅だけに限らず、自分が常日頃から考えているのは、コーヒーの仕事で自分と家族と一生暮らしていきたいということ。そのためには当然お金が必要だし、コーヒーをビジネスとしてしっかり成立させていかなければならない。”稼ぐ”ということは、そのためにコーヒー豆の売上を増やして、同時に仕入れる量も増やしていくということで、自分のお店が持続していくためにはもちろんのこと、当然ながら産地のためにもなるし、新鮮で美味しいコーヒーを常に回し続けられることはお客様のためにもなる。
昨日の昼間にHONO roasteria村井さんも仰っていたことだが、日本人はお金を稼ぐことに対して少しネガティヴに考えすぎる節があると思う。もちろん姑息なやり方をするのではなく、自分が納得できる形で商売をして、一生この仕事を続けていくためのヒントを、この旅の中で見つけられたらと思っている。

我ながら少し露骨すぎるテーマかな、と思っていたが、あとに話したBERTH COFFEE西村さんが同意してくれたのが嬉しかった。

La Colina農園へ|グァテマラ・エルサルバドル買付旅行記【vol.3】byロースター萩原

翌朝、少し早起きしてHONE ROASTERIA村井さんとBERTH COFFEE西村さんと、持ち寄ったコーヒーを淹れて飲む。みんなさすが美味しいコーヒーばかりで嬉しくなる。

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朝食のメニューにFrench Toastとあったので頼むと、巨大な揚げドーナツが3個出てきた。どこでそう変化してしまったのか全く不明だが、コーヒーと共に無理やり胃に詰め込んでバスに乗り込む。

グァテマラ滞在4日目。ピックアップトラックでLa Colina農園へ

今日向かうLa Colinaは標高1,800m、車で2時間の道のり。ところどころ舗装されていない道を進み、みるみる標高が上がっていくのを感じる。

道中車窓に映るのは簡素な造りの四角い建物で、それぞれ住居や食料品店が軒を連ねる。それぞれの住居の間口にはキッチンがあって、女性たちがみんなトルティーヤを焼いていた。首輪の着いていない犬がそこら中を歩いていて、古い日本車や韓国車がたくさん走っている。きっとこれがグアテマラ郊外の一般的な光景なんだ、と思った。

農園の麓の集落に着くとマイクロバスから降ろされた。ここから先は道が険しくなるので、ピックアップトラックに乗り換える。ただ乗り換えると言っても、乗るのは座席ではなく荷台の上だった。思いがけない移動方法に思わずテンションが上がる。

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乗り換えてからの道のりは確かに相当険しいものだった。いかにも山を切り拓いて作った感じの道は当然舗装されておらず、大きな礫がゴロゴロと転がっている。それを乗り越える度にトラックは大きく揺れて、腰や足を打ち付けながら進んでいく。

途中、道端にコーヒーの木と、シェードツリーだろうか、バナナの木が植えられているのが見える。日本ではありえない景色と状況に胸が躍る。

「ここから5分で着く」と言われて乗り込んだトラックだったが、実際の道のりは20分ほど続いた。これも中米あるあるだ。

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急に視界が開け、目の前にコンクリートパティオに広げられたパーチメントコーヒーが現れた。この農園では収穫したコーヒーチェリーをパーチメントコーヒーに加工するウェットミルが併設されている。

日差しはジリジリと暑かったが、吹き抜ける風はとても心地よかった。ときおり風の中に発酵したチェリーの香りが混ざる。発酵臭といっても嫌な匂いではなく、熟した果実の甘い香りで、ワイン工場の匂いにも似ていた。

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農園のすぐ近くに農園主のAntonioの家があり、裏手にある東屋で小休憩。ウェルカムコーヒーとトルティーヤを振る舞ってくれた。コーン100%のトルティーヤに自家製チーズを包んで食べる。このチーズが絶品で、ミルク感たっぷりなのにフレッシュで生臭くなく、何枚でも食べれそうだった。

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コーヒーチェリーの摘果体験

ここからAntonioの案内でコーヒーチェリーが植っているところまで歩いた。その道もトラック一台が通れるくらいの広さで、なかなかの斜度がある道だった。ピックアップトラックの荷台に乗り込んだ集落の周りではバナナの木をよく見かけたが、このあたりには松がたくさん生えていた。自生している植物を見るとそのあたりの標高がなんとなくわかる。これも産地に来てみて初めて知ったことだ。

シェードツリーとしてはチャルーンという植物を植えている。葉が丸く大ぶりで、葉が落ちると地面に布団のように覆い被さり、土の湿度を保つ役割を果たしてくれるそうだ。

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生えているコーヒーの木たちは一見元気が無さそうに見えるが、これは乾季のため普通のことらしい。むしろ乾季の間は水をやらずに植物にストレスを与えた方が、その後の開花→結実に良いそうだ。

通常乾季は10月頃から翌年の4〜5月まで続き、その間雨はほとんど降らないのだとか。この農園では例年1〜4月にかけて収穫時期となり、その9ヶ月前に開花するのが理想的なスケジュールとなる。ギリギリまで雨が降らず開花を我慢させるのが、質の良いチェリーの結実に大切なのだそうだ。

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農園で実際に働いている従業員の方の手ほどきを受け、チェリーの摘果体験をさせてもらった。紐のついたカゴを腰につけ、完熟したチェリーだけを摘み取っていく。

同じ木、同じ枝になっているチェリーでも、日の当たり方などによって熟度が異なる。収穫のタイミングを迎えたチェリーはあまり力を入れなくてもぽろっと取れる、と言われたが、実際に熟度を見極めながらの作業はなかなか難しかった。

加えてチェリーが植っているのは中々の急斜面で、作業が進むにつれて腰につけたカゴはどんどん重くなっていく。なるほど、話には聞いていたがやはりかなりの熟練が必要な重労働だと実感した。

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実際の作業は朝6時から15時ごろまでピッキングを行い、そのあとの時間はプロセス作業に移る。農園の広さは17haほどあり、最盛期には40人ほどのピッカーが必要になる。

ウェットミルでの作業風景

そのあとはウェットミルで精製の流れを説明してくれた。この農園では主にウォッシュドを行っている。

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まず収穫したチェリーを水につけ、浮いてくる軽いチェリーを選別、チェリー表面のゴミなどを軽く洗い流す。また、このあとの発酵工程に影響が出ないように、チェリー全体の温度を一定にする役割もある。

ここで使われた水はまたタンクに戻るようになっていて、何度も再利用される。この場所にウェットミルがある理由の一つに、水源が近くにあるということが挙げられるが、限られた資源である水を無駄遣いせず、大切に使うという工夫は随所に見ることができた。

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次にパルパーという機械で果皮と果肉を剥ぎ落とし、発酵用のプールへ移す。ここで約36時間の発酵をかけることでパーチメント表面の粘着質を落とし、かつコーヒーの複雑な風味を作り出す。

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このプールでの発酵工程で意外だったのは、水につけるのではなく、パーチメントコーヒーだけを置いて発酵させるということ。これも限られた水を無駄遣いせず、環境負荷の少ない形でプロセスを進めるための手法で、グアテマラ・スペシャルティ/ウォッシュドの90%以上がこの方法をとっているのだとか。恥ずかしながら、このとき初めて知ったやり方だった。

この発酵工程はコーヒーの味作りにとって非常に重要で、特にスペシャルティコーヒーらしいフルーティな酸味はここで生みだされる。ただ、設備と時間がかかる処理のため、コモディティの大量生産の現場では発酵過程を経ずに乾燥させてしまうこともあるのだとか。コモディティコーヒーに酸味が少ないものが多いのにはそうした理由もあると、これも初めて知ったことだった。

発酵がどの程度進んだかは経験によって判断する。木の棒を深くまで突き刺し、それを引き抜いたときに穴がそのまま残るようなら、発酵完了が近い証拠らしい。ウォッシュドの味作りは、こうした熟練の技術者によって行われているのだと感じた。

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精製の各段階では随時選別が行われ、スペシャルティコーヒーには適さない未熟な豆などは選り分けられていく。そうして取り除かれたチェリーも捨てることはせず、インスタントコーヒーなどの原料として市場に売る。

取り除かれたパルプ(果皮と果肉)もカスカラとして加工されたり、肥料に使われたりする。コーヒー生産の現場では捨てるものはなく、すべてが商品として利用されるのだという。

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コンクリートパティオではウォッシュドのパーチメントコーヒー乾燥の真っ最中だった。気候にもよるが大体10日程度で基準の水分値まで乾燥させる。

パティオ一面で大体4,600kg分くらいのコーヒー豆になるそうだが、それでも収穫のピーク時には間に合わないくらいで、層を厚くして撹拌を小まめにするなどして対応している。

ここでも撹拌作業を体験させてもらったが、この広さを日中30分〜1時間おきにかき混ぜて回るのは、かなり骨の折れる作業だと思った。

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グァテマラの伝統的な家庭料理で昼食

ウェットミル見学のあとは、Antonioの奥さんがお昼ご飯を振舞ってくれた。

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グァテマラの伝統的な家庭料理である牛肉のスープと蒸した野菜、アボカド、トルティーヤ。このスープが本当に絶品で、牛肉と野菜の旨みがしっかりと溶け出して、疲れた身体に染み渡った。あとから振り返っても、今回の旅を通して1、2位を競うほどの美味しさだった。

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食事のあとはAntonioに農園について色々質問させてもらった。この農園ではカトゥーラ、パカマラ、ゲイシャ、ブルボンを栽培している。家の軒先に小さな籠に入ったパーチメントコーヒーが並んでいて、それはすべてゲイシャのスペシャルロットなのだという。恐らく麻袋で4〜5袋くらいの量しかないが、特別な香味のコーヒーになるに違いない。

話を聞く中で印象的だったのは、「ここでは主にウォッシュドを行っているが、アナエロビックなどの特殊な精製についてどう思うか」という質問に対する応えだった。Antonioと Nadineが顔を見合わせて少し笑ったあと、「アナエロビックに興味はない。明日のカッピングで僕たちのウォッシュドを飲めばわかるよ」と言った。なんて格好良いんだろうと思った。

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この日の夜、Antiguaに戻って夕食を食べたときにもNadineが言っていたのだが、「彼らは自分たちの土地と、そこで作られるコーヒーに誇りを持っている。恵まれた標高と土壌、その環境に適した品種、そしてプロフェッショナルな収穫と精製。それが揃えばクリーンで魅力的な風味を持ったコーヒーを作ることができる」と。

Primaveraには農家へのサポートチームがいて、クオリティ向上のためのアドバイスも行なっている。そのことも安定した品質への自信と誇りに繋がっているのだろう。アナエロビックなどの新しい手法に安易に手を出すのではなく、その土地だからこそできるコーヒー作りに全力を注ぐ姿勢は、スペシャルティコーヒーの本来的な意味のひとつであるテロワールを大切にするということを思い出させ、この人たちのコーヒーを取り扱いたいと心から思わせてくれた。

翌日はいよいよGuatemala CityにあるPremaveraのオフィスでカッピング。今日のAntonioの言葉の意味を確かめるのがとても楽しみだ。


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