アジアのスペシャルティコーヒー産地事情|坂ノ途中様インタビュー

2019.03.07


「百年先も続く農業を。」というコンセプトのもと、農薬や化学肥料に頼らない環境負荷の小さな農業の普及を行なっている『坂ノ途中』様。主にラオスの山中で活動されているという海外事業ご担当の安田様より、アジアのコーヒー産地事情について教えていただきました。

ロースター萩原:
月に4種類のコーヒー豆を送るっていう定期便サービスをやってまして。早速御社の豆を使わせていただいたんですが、やはり反応は良かったですね。

安田さん:
ありがとうございます。『坂ノ途中』っていう会社自体は2009年に創業して、【百年先も続く農業を】っていうコンセプトで、どうやったら持続可能な農業が広がるのかを考えています。

日本の農業の課題として、高齢化が進んでいることでどんどん耕作放棄地が増えているっていうのがあるんですけど、これって別の観点からみると、有機農業が広がっていくためのチャンスでもあるんですよね。

僕たちは、新しく農業をはじめる方たちのサポートをしているんですけど、彼らは有機農業をしてみたいっていう人がほとんどなんですね。なので空いていく農地に彼らがちゃんと入って、そして継続していければ、どんどん有機農業っていうのが日本に広まっていくんじゃないかっていうのが最初のスタートです。

ロースター萩原:
農地と農業希望者のマッチング的なことですか?

安田さん:
マッチング自体は、実は結構自然に起こってるんですよ。でも難しいのは継続なんです。農業って収穫量が不安定だったりすると、売り先がなかなか見付からない。それで農業を続けることを諦めてしまう方も多くいらっしゃいます。だから坂ノ途中が間に入って、少量ずつ買い取ってお野菜セットとしてお客さまに届けたり、あとは作付け計画を一緒に考えたりすることで、新規就農者さんのサポートを行なっています。

途上国の農業事情に見た危機感

安田さん:
坂ノ途中の事業自体は
日本からはじまってはいますが、もうちょっと視野を広げて考えてみると、環境負荷の増大っていうのは、いわゆる途上国って呼ばれるところこそ起こっているんです。

例えば、化学肥料のことがよくわからない途上国の農家さんにとって、それはは魔法の薬みたいに見えてしまうんです。撒けば撒くだけ野菜がぐんぐん育つみたいな。なにかわからないけどいいらしい。っていうと、使いすぎちゃう。

ロースター萩原:
なるほど。そうなると、土地はどんどん痩せていってしまいますから、いつかその土地で農作物ができない時が来てしまうというわけですね。

教育だったり、制度だったりが追いついていないまま、新しいツールだけがやってきたとなると、どんどん厳しいことになっていきますね。

ラオスでのスペシャルティコーヒー栽培チャレンジ

日本の農地問題から、海外途上国の農地問題まで、持続への危機感を覚えた安田さん。アジアのコーヒーにたどり着いたきっかけは、何だったのでしょうか。

安田さん:
アジアのコーヒーとの出会いは、実はコーヒーの買い付けをはじめようと思っていたわけではなくて、実はラオスの森がどんどんなくなっていってるっていう話を聞いて、それをきっかけにコーヒー作りに繋がっていくんです。

ラオスでは、焼畑農業っていうのがよく行われていて、ご存知ですか?

焼畑農業(やきはたのうぎょう)/ 焼畑農法(やきはたのうほう)は、主として熱帯から温帯にかけての多雨地域で伝統的に行われている農業形態である。 通常は耕耘・施肥を行わず、1年から数年間は耕作した後、数年以上の休閑期間をもうけて植生遷移を促す点が特徴である。ウィキペディアより

木が持ってるエネルギーを燃やして、土の栄養に換えるんですけど、3年間くらいは育つんですよね。野菜だったり、お米だったり。それが3年ぐらいたつと育たなくなる。

まあ当然なんですけど。栄養がなくなるので。じゃあ次、次って、焼畑しながら移動していくんですけど。昔は10年くらいのペースでまた同じ農地に戻って来てたんですが、人口が増えたり、もっとお金を稼がなきゃいけなくなったりと、生産サイクルが早くなってしまったことで、思う様に育たなくなってしまったんです。

↑ 焼畑によって拓かれた森(インド)ウィキペディアより引用

焼畑はペースが保たれてこそ成り立つが、ペースが早まると十分な栄養が補えず、土地がどんどん痩せていく。

安田さん:
焼畑農業がダメなら、それ以外に何かしなきゃってなるんですけど。これまた急なシフトが起きてしまって、全部森を切って、ゴムの木やトウモロコシをざっと一面に植えてしまうみたいな。

しかも、みんな一斉に作ってしまうので、価格がガクッと下がってしまう上に、もともと森が持ってた多様な価値、薪や木材や薬草、あとは狩りとかもですけど、そういうのが全部なくなっちゃう。

それってもったいないよなってことで、森を残したまま、生産者としてお金もちゃんと得られる『コーヒー』にたどり着きました

ロースター萩原:
なるほど、じゃあその森をシェイドツリーとして使って、コーヒー栽培を始めたわけですね。コーヒーの木はどこから来たんですか?

安田さん:
もともと生えてたんですよ。ラオスの山奥なんですけど、コーヒーに適した土地だったらしくて、昔ヨーロッパの方が植えて、育て方も教えたっていう歴史があるみたいで。でも、育てられるようになった頃には帰ってしまったみたいで、収穫した後どこに売ったらいいものかわからない。という状態だったみたいです。

キャパシティビルディングっていうらしいんですけど。ビルディングはしたけどマーケットがなくて、この赤い実はどうしたらいいのみたいな。

ロースター萩原:
もったいない話ですね。じゃあ、ものはあったけど、それも持ち腐れというか、ただ植わっているだけだったものを活かして、さらにそれを発展させていこうという感じなんですね。

知名度は低いが品質は良い|アジア産スペシャルティコーヒー

アジア産のコーヒーというと、コモディティがメインな気がしてしまいますが、実は品質のよいスペシャルティコーヒーも多くあり、南米や中米、アフリカとはまた異なった風味を楽しむことができます。

安田さん:
最初はラオスから輸入して、焙煎豆で販売したことから始まってるんですけど、アジアでコーヒーの産地ってなかなか珍しいっていうことで、いろんな人に紹介いただけるようになりました。

ミャンマーにしてもフィリピンにしても、美味しいコーヒーってあるんですよ。僕はコーヒーにそんな詳しくなかったんですけど、アジアにもこんなに美味しいコーヒーあるんだよって持ち帰ると、お客様にすごい驚かれて。

全然広まってないんだな。みんな知らないんだな。っていうのを逆に僕は知って、じゃあこういう人たちに光を当てるというか、広めたり紹介したいなと。

安田さん:
僕ができることって、栽培へのアドバイスではなくて、他の産地で何が起こっているかを紹介することなんですよ。

例えば、僕らの関わってる生産者でいうと、ミャンマーの方がラオスより生産規模が大きいんですけど、生産処理の排水をどうしようみたいな問題が起きてきて、とはいえまだ成長段階なので大規模な機械への投資はできない。

じゃあどうする?なんとか低コストで廃水処理ができないか?ってなったんですけど、ラオスではそれを普通にやってたりして。微生物の力を使った簡易な浄化システムなんですけど、その技術を紹介したら、すぐに導入されてましたね。

ラオスでやっていることがミャンマーに活かされたり、その逆もある。僕が産地を行き来することで、伝えていくことができるので、産地を広げていこうって決心したことにつながってますね。

ロースター萩原:
今は世界的にもそういった取り組みはされているみたいで、ブラジルでケニア式のアフリカンベッド使ってみたり、そういう生産処理での実験的なロットが出てきてます。

今月入荷するコスタリカの豆は、ケニアでよく育てられてる品種の苗を持ってきて、コスタリカで育ててみるということをやってたり。生産国家の交流は世界的にも進んで、発展していっていますね。

ただ、やっぱり生産国同士で繋がるっていうと、ハードル高いと思うので、安田さんみたいな方は、その発展の大きな助けになりますよね。

アジア産スペシャルティコーヒーの可能性

アジア諸国で情報屋さん的な役割も担っている安田さん。アジアのスペシャルティコーヒーが発展していくためには、生産する技術よりも、農園同士の協力と流通販路の多様化が大事と語ります。

安田さん:
八百屋が始めたコーヒーですけど、農作物という意味では基本は一緒ですよね。八百屋だからこそわかることもありますし。

現地で糖度計でコーヒーチェリーを測ってみて、糖度が高いからといって、美味しいコーヒーですねとはならないわけで。複雑な風味が出るから美味しいってなるわけじゃないですか。

例えばトマトの場合でも、農地にバッと化学肥料撒いて、栄養を1箇所に集中させてしまうと、単調な味になるんですよ。香味とか酸味とか、複雑性を出すのであれば、ある程度ストレスのある状態で育てる必要があるんです。その辺りは、やはりコーヒーも同じ農作物なんだなって思います。

ロースター萩原:
それは面白いですね。御社だからこそできる気づきですね。

ところで、THE COFFEESHOP はスペシャルティしか扱わないというスタンスなんですが、アジアのコーヒーっていうとコモディティをいっぱい作ってるイメージですよね。

安田さんは、新しいスペシャルティコーヒーのフロンティアとして、アジアに注目されていますが、生産者の間でのスペシャルティに関する意識、現状はどういったものなんですか?

中米やアフリアは、スペシャルティをバンバンつくっていますが、アジアでスペシャルティを作る可能性がありそうな地域はあります?

安田さん:
スペシャルティってなると、一部の意識の高い農家さんっていう印象ですけど、少しずつ増えてはいますね。どこにでも熱意を持って勉強をされている方はいるんだなって思います。

アジアのスペシャルティコーヒーがあまり注目されないのは、光が当たりきっていないってこともあるのかなと。あと、小規模農家さんが兼業でコーヒーをやっているって場合も多くって、バラバラで生産している農家さんたちをつないで、品質を管理できるような人達とも協力しあってスペシャルティを作っていくことが大事なんだと思います。

また、全部を全部スペシャルティで作るのは無理があります。選定が厳しくて難しいスペシャルティコーヒーと、ざっくり整ってれば出荷できてしまうコモディティとが、時期ごとや地域ごとなんかで分けて上手く協力しあうからこそ、生産者の方の生活が成り立つ。

そこで重要なのは、多様な販路を持ち、品質をきちんと見分けることができるバイヤーの存在なのかなと思います

ロースター萩原:
となると、ちゃんとしたロースターが、ちゃんとした焙煎をすることも大事ですね!

こうして現地を行き来している安田さんみたいな方からお話伺えると、リアルに繋がりを感じられるというか、自分の仕事の責任っていうのも、しっかり受け止めてやるって、気持ちが入りますね。

後編へ続く…

合わせて読みたい
→ プロに聞く!コーヒー生産国と品質|スターカッパー 松元啓太氏 インタビュー vol.1

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