ロースター萩原 インド訪問記録| Chikmagalur & Ratnagiri Estate 編

1月8日(木)〜1月15日(木)まで、ロースターの萩原がインドへ産地訪問へ!
マガジンでは訪問の記録として、農園の特徴やインドのコーヒー産業の状況などをお届けします。
今回は第三弾として、インドのコーヒー生産発祥の地〈Chikmagalur〉と、ツアーの1番の目玉と言える〈Ratnagiri Estate〉をご紹介。
ぜひ最後までご覧ください!
Chikmagalur|インドのコーヒー生産発祥の地
2026年1月12日
Chikmagalurに到着。
ここはインドのコーヒー生産が始まった場所で、17世紀にイスラム聖者のババ・ブーダンという人がイエメンのモカから種子を持ち帰り、ここに植えたのだとか。
その植えた場所とされるババ・ブーダンの丘というところは観光名所として有名。残念ながら寄る時間はありませんでした…。
Chikmagalurは古くからコーヒー生産が盛んで、今回はドライミル工場を見学。近くの農園からチェリーやパーチメントが持ち込まれ、最終選別と加工、レスティング、出荷までが行われています。
持ち込まれるコーヒーの多くはチェリーの状態で、それすなわちコモディティグレードのもの。スペシャルティコーヒーとはラインを分けて作業しているとのことでした。
ちなみにここで精製されるコモディティコーヒー、商品としてロット分けされるのはスクリーンサイズのみ。粒の大きさだけで分けられます。『インドAAウォッシュド』、みたいな感じで地域分けすらされないそうです。
こういったドライミル設備は他の生産国でも見たことがありましたが、インドの工場もあまり変わりなく整っているように感じました。女性のスタッフが多く、みんな色とりどりのサリーを身につけて作業していたのが印象的でした。
Ratnagiri Estate|最大の強みは研究に基づく発酵のコントロール
①Ratnagiri Estate
1月13日
今回のツアーの1番の目玉と言えるRatnagiri Estateに到着。
”Ratna”は真珠、"giri"は山を意味し、"Pearl Mountain"とも呼ばれています。
ここはコーヒー農園ですが、自社でウェットミル・ドライミル機能を持っており、生産から加工、輸出までを一貫して行なっています。
そしてそのミル施設がとんでもなく先進的で、彼ら曰く世界一の設備が揃っているとのこと。
間違いなく今回のツアーの白眉はこの農園の精製施設でした。
最初に案内されたオフィスは、オフィスというかラボに近い印象。
研究施設のようなところで、ここでは2人の作業技師・専門家が発酵を科学的に分析、データを蓄積しています。
農園の1日の仕事は早朝から。
女性たちを中心にしたピッカーたちが農園内からチェリーを集め、ハンドピックを開始します。
集積所にてソーティングを行い、生産ライン最初の投入口に集めいきますが、最盛期には1日に生産するチェリーは50tにも上るそうです。
ここまではこれまで見てきた他の農園とあまり変わりない光景。
ハンドソーティングを終えたチェリーはコンベア式に運ばれ、選別機にかけられていきます。
選別は異物除去→比重選別→フローター除去→乾燥→カラーソーティングと進みます。
そして、選別を経た豆は特殊なプールに入れられ、オゾン洗浄されます。これによりチェリー表面に付着している微生物を一旦ゼロにすることができるようです。
チェリーの発酵は微生物の働きで進んでいきます。
通常はチェリーの表面や内部にある自然の常在菌が働くことで発酵が進みますが、その数と種類はある意味ランダム。それが味のブレ、精製の失敗に繋がることもあるため、オゾン洗浄によって常在菌をリセットし、このあと任意のイースト菌・ワイン酵母・乳酸菌などを添加し、発酵をコントロールしているそうです。
発酵に使用するイースト菌は何種類かあるものから任意に選ばれます。
これらのイーストはコーヒー発酵用に販売されているそうで、それぞれ例えばトロピカル系のフレーバーを引き出すとか、質感をクリーミィにするとか、イーストごとの特徴があるそうです。
また、Pichiaというこの農園で集めた常在菌のブースターもあり、オゾン殺菌で一旦ゼロにしたあとに適切な量だけ添加できるという仕組みを取り入れていました。
オゾン殺菌されたチェリーはバイオリアクターに入れられ、そこに水と酵母パウダーを投入。
リアクターは温度管理が出来、酵母ごとに発酵が促進される温度をコントロールすることも可能。
また好気性・嫌気性の選択、CO2の添加(カーボニックマセレーション)もできるそうです。
巨大なバイオリアクターが3つ、小ぶりなものが10機ほどあり、この設備は世界に3か所しかないらしく、ひとつはコロンビア、もうひとつはアジアのどこかにあるそう。
リアクターは高圧にも耐えることができ、農園でよく見るプラスチックのタンクでは破裂してしまうような高圧をかけられます。
圧力をかけるのは発酵の促進や、チェリー内部へのモストの浸透に効果があるそうです。
発酵作業に入るのは夕方16時くらいから。一晩かけて発酵を進め、翌朝10時くらいに一度進行具合を確認します。
リアクター内部では発酵によって内圧が高まっていくので、随時バルブを開いて圧を逃しながら進めていきます。
発酵の進行確認はモストを取り出して行います。モストとはチェリーから出てくる果汁のこと。このモストを顕微鏡で見て、ちゃんと任意の微生物が増えているか、その種類と数を確認します。
その他phやTDSなどもも計測し、発酵ができる限り再現性をもってコントロールできるようになるそうです。
そしてモストは飲むこともできます。初めて飲みましたがフルーティで美味しい!発酵しているのでアルコール感もあり、味はロットによって全く違いました。
添加するイースト菌や乳酸菌の種類によってかなり差があったので、おそらく品種とかによっても違うはず。
赤ワイン、柘榴、スパークリング、ベリー、イチゴ、みたいな風味を感じました。僕個人はワインが飲めないんですが、ナチュールみたいな飲み口と評している人もいました。
顕微鏡でのモニタリングをしながら発酵を進め、良きところで取り出してパルピング(脱穀)。モストは取っておいてウォッシュドの二次発酵などに使うようです。
通常、モストは劣化しやすく、4〜5時間くらいでダメになってしまうそうですが、専用の大きな冷蔵庫があるので2〜3週間保管が可能。無駄がない。
パルピングのあとは乾燥に移ります。
ここの責任者曰く、最も大切なのは乾燥工程で、ムラなく適切に行うことが品質に直結するそう。
これだけ発酵技術を持った農園ですが、乾燥の方が大切だということに少し驚きました。
乾燥は4つのパターンをもっているようで、
1:屋根付きのアフリカンベット
2:温度湿度管理を行なった箱型のドライヤーハウス
3:回転するドラムに熱風を送って乾かすメカニカルドライヤー
4:ダークルームと呼ばれる光まで管理された暗室乾燥
これらを使い分けているとのことでした。
ダークルームという乾燥設備はいま世界中にあるますが、ここにあるものは中でも有数の巨大なサイズ。暗室内は温度コントロールが可能で、3℃くらいから35℃くらいまで、温冷を繰り返しながら乾燥を進行することができます。
暗室内では赤い照明が焚かれており、これが1番風味に良い影響を与えるとのこと。ブラジルダテーラ農園と大学が共同研究しているらしく、研究データもしっかりと保管されているそうです。
乾燥の後は機械選別。ここでは日本のカラーソーターが使われていました。高いけどこれが1番良いとのこと。少し誇らしい気持ち。
この場所でエコタクトに脱気梱包までできるそうで、一貫した品質管理が徹底されていました。収穫から精製、ミリングまでを手早く出来るのは品質にとてもよいと感じます。
翌朝、前日の夕方に仕込み始めた発酵槽からモストを取り出して進捗の確認。仕込んだイーストの種類によって顕微鏡に写る様子が全く違い、モストの味も全然違いました。
そのあとはいくつかのサンプルバッチをカッピング。
すべてここの農園で収穫したものですが、使用している酵母の種類や発酵の手法が異なるようで、中にはかなりファンキーなものも。
かなり良い感じのものもいくつか見つけることができました。
聞くとメカニカルドライヤーのものが多く、個人的にはメカニカルドライヤーに良い印象があまりなかったので意外!短時間の乾燥でも温度と湿度をきちんと管理してあげれば良い乾燥ができるのだとか。面白い。
この場ではまた乾燥からフレッシュすぎて味が出てないものもあったので、後日改めてサンプルと価格を送ってくれることに。
Ratnagiri Estate訪問で生じた変化|添加物とテロワールに関して
正直、ここの農園に来るのは少し勇気が要りました。
個人的にイースト添加などの特殊発酵には少し否定的なイメージがあったからです。
単純に味わいの部分でこれまで好みではないものが多かったのと、その土地ならではの味=テロワールを壊してしまう、と考えていたから。
テロワールを壊してしまうのならば、その農園である必要がなく、それはスペシャルティと言えるのだろうか?という意識が強くありました。
ただ、今回の視察を通して特殊発酵への考え方が少し変わってきました。
それは、この施設で行われていることは、特徴的な味づくりを目指しているだけではなく、持続的なコーヒー生産を意識したものだから。
発酵によるカップのコントロールは、農業としてのコーヒー生産には避けられないリスクをできるだけ抑えるための技術でした。
コーヒーの味は些細なイレギュラーで大きく変わります。
それは不意の雨だったり、発酵のコントロール不足だったり、また大きくは気候変動の影響だったり。気候変動によって栽培環境が変わり、これまでと同じ作り方では品質が下がってしまうということも良くあります。
実際、Ratnagiriを訪問している日中は小雨が降っていました。本来なら乾季にあたるこの時期に雨が降るのは珍しいことですが、気候変動の影響で近年増えてきているそうです。
収穫のタイミングで雨が降るのはクオリティにとってよくないこと。チェリーが水を大量に蓄えると、果肉が膨張して皮が割れ、そこから中に雑菌や虫が入ってしまうそうです。
発酵による風味のコントロールは、そうしたリスクに対応するためのものです。たとえ収穫期に雨が降ってチェリーが割れても、ここの技術を使えば安定した品質とボリュームを確保することができます。
それは消費者にとってはもちろん、ほんとうに数多くの人が関わる生産国にとってとても重要な問題です。
品質=価格に直結するスペシャルティにおいては、品質劣化は収入の低下を意味します。
それはピッカーさん一人一人に支払う給料の低下に繋がり、持続的にコーヒー産業を続けていくことができなくなってしまうことになります。
テロワールに対する考え方|生産技術の向上に応じた価値観の更新も必要
テロワールという言葉。
これはその産地がもつ微気候によって生まれる独自の味わいを意味します。
スペシャルティにとってとても重要なキーワードで、このテロワールを味わうことこそがスペシャルティの本質、と考えている人も多いと思います。僕もそのひとりです。
ただ、今回の訪問を通して、テロワール信仰はリスクもあるのでは?と思いました。
いま気候変動によって、平均気温の上昇や雨季乾季のリズムの狂いが起きています。
つまりテロワールの変化です。
これから先も持続的にテロワールだけに頼ってコーヒー生産を行うのは難しい局面に入っていると思います。
もちろん唯一無二のテロワールを探し求めることには非常にロマンを感じますが、では気候変動によってその土地のテロワールが変わってしまったら?
もう買わないよ。と言うのか?それはあまりにも無責任ではないのか?
世界中のコーヒー産業を守っていくために特殊発酵の技術を活用することは、簡単に忌避すべきではないと心から思えるようになりました。
"テロワール"という言葉の意味を考える
もちろん、特殊発酵プロセスのコーヒーはまだまだ発展途上です。
具体的にはもっと消費国で求められるカッププロファイルの擦り合わせが必要だと思います。
実際にテーブルに並んだサンプルもかなり酸が強かったり、癖が強いものも多くありました。特に日本ではもう少し穏やかなバランス感覚が求められると思います。
これはあくまで生産国側との擦り合わせの問題が大きいと思いました。これまで以上に生産者側と密にコミュニケーションをとり、もっとこういう味がほしい、こういう味が求められているということを生産者側に伝えていく必要があると感じています。
そういう意味で、深く生産者側と会話ができ、今後も継続していけるであろう今回のYettuとのツアーはとても意味のあるものだったと思います。ひとりのロースターとして生産の責任者と直接話せて、気軽に連絡が取れるようになるのは、簡単ではありません。
ロースターとしてできること|生産者と消費者を繋ぎ、正しい情報を伝える重要性
日本では特殊発酵プロセスに対するネガティブな先入観がかなりあると思います。それはロースター・一般消費者のどちらもで、理由は前述した通り、かなりピーキーな味わいのものが多いからだと思います。
ただ、今回のツアーで見てきた特殊発酵プロセスは、コーヒー産業のこれからを繋げていくために必要な技術だと感じました。そのために、ロースターと生産者と一丸となってきちんと「美味しいコーヒー」を作っていくことが大切だと思います。
プロセス段階での味作りはもちろん、発酵や乾燥によって変わる生豆の状態をしっかり理解し、適切に焙煎・抽出するロースター・バリスタの技術も大切だと思います。そして、なぜこういう味になっているのか、なぜこういう特殊なプロセスを作っているのかを伝えていくことも重要です。
まだまだ発展途上だからこそ、いまこのタイミングで関わることができて幸運だったとも思っています。
カップのすり合わせが一番大切
今回のインドツアーでは、とてもアクセスの悪いトラディショナルな農園から、超最先端設備が整ったラボのような農園まで、コーヒー生産の色々な可能性を見させてもらいました。
そのどちらもコーヒーという飲み物の底知れない魅力を感じさせてくれました。
この多様性こそコーヒーの面白さであり、懐の深さであり、心惹かれるところなんだと思います。
そして、南インドの風習や食を通して、インドという国を僅かながら理解できたような気がします。
今回の機会を作ってくれたkaapi & culture 代表のクマさん、品質責任者のViggneshさん、通訳として帯同してくれたギータさんに心から感謝します。
特にViggneshとギータさん、この2人がいなければきっとインドに対する僕のイメージがここまで変わることはなかったと思います。
何か一つ質問すると、その背景から仕組みや理由までたくさん説明してくれるViggnesh。
ビジネスとしてコーヒーに関わるのはもちろん、純粋にコーヒーが大好きなオタクなんだろうなと思います。
また、我々の旅が快適に、かつ満足度が上がるように細かいアレンジメントと気配りをしてくださいました。
おかげでほとんど不自由することなく、元気にツアーを完遂することができました。
そしてギータさん。
インドのさまざまな歴史、文化に造詣が深く、何を質問しても嫌な顔せず真摯に応えてくださいました。
また、心から我々にインドの魅力を伝えたいんだ、ということがとても伝わってきました。
ギータさんとお話ししていると感心することばかりですが、同時にとても安心する気持ちになりました。
今後は勝手にインドの母と呼ばせていただきます。
お二人のおかげでインドという国がとても好きになりました。
本当にありがとうございました!またインドでお会いできたら嬉しいです!
生産国に行くとコーヒーの味だけではなく、その国の文化やそこで出会った人のこともお客様に伝えていきたいと強く思います。
その奥行きこそがスペシャルティコーヒーの魅力。
またライブ配信やマガジンを通して、お届けして行きたいと思います。
そして、ロースター萩原は3/26(木)から、今度はホンジュラスへ旅立っています!THE COFFEESHOPの産地訪問記ホンジュラス編も、どうぞお楽しみに!
WRITER
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Daito Hagiwara
THE COFFEESHOPロースター
THE COFFEESHOPにて取り扱うすべてのコーヒー豆の仕入れと焙煎・クオリティコントロールを担当。日々焙煎の研究とコーヒー豆の品質チェックを行う。2024年 Next up Roasting Championship優勝。2025年 焙煎競技会 ROAR OF THE ROAST 2025 優勝
毎週日曜日18:30〜Instagram、YouTube、Xスペースでライブ配信中!
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