コーヒーケトルの保温で味わいは変わるのか|コーヒー抽出と湯温の関係を深掘り
「抽出レシピを見た時にお湯の温度は◯◯℃がいいと書いていますが、注ぎの最中もケトルを保温した方がいいんですか? また、コーヒーを淹れる時に使うお湯の保温方法でおすすめはありますか?」
先日、THE COFFEESHOPにこんな質問が寄せられました。
なるほど。細かいことかもしれませんが、言われてみれば確かに気になるポイントかもしれませんね。
ということで今回は、抽出と湯温の関係性についての番外編として、『抽出中のコーヒーケトル(ドリップポット)の保温で、コーヒーの味は変化するのか?』というテーマで検証していきたいと思います。
コーヒーを淹れる時のお湯|保温によって味に変化はあるのか?
コーヒーの抽出レシピを考える上で大事な要素の一つである抽出時のお湯の温度。
抽出し始めはもちろん、その最中のケトル保温状態の違いで味わいがどう変化するのか検証していきます。
検証に使用した抽出レシピ
抽出開始時の湯温と湯量は、93℃:350ml(ケトル内)で固定。
注ぎのレシピは、THE COFFEESHOPオリジナルレシピで抽出していきます。
その他、検証の諸条件は以下の通り。
粉量:18g #中挽き
湯量:300ml
V60メタルドリッパー 02
V60ペーパーフィルター
コーヒーケトル(ドリップポット)
検証に使用したコーヒー豆は 【Ethiopia/Haloberiti】 。
浅煎り。スウィートレモン、ティーライク、ほのかにハーブのような印象。
さらっとした質感で、紅茶に蜂蜜を入れたような甘さの印象があります。
抽出レシピは以下の通りです。
1投目 0:00-0:10 60g(蒸らし)
2投目 0:40-0:55 80g
3投目 1:05-1:20 90g
4投目 1:30-1:40 70g
抽出レシピの詳細は、こちらの動画でご確認ください。
抽出中のコーヒーケトル保温条件
case1:蓋あり・保温あり
抽出中に都度IHに戻し、保温しながら抽出。
case2:蓋あり・保温なし
ケトルの蓋を閉めたまま抽出。
case3:蓋なし・保温なし
ケトルの蓋を開けたまま抽出。
結果:ケトルを保温しながらコーヒーを淹れると美味しくない
それではそれぞれの検証結果を見ていきましょう!
ケトルを保温しながらコーヒーを淹れることに意味はあったのだろうか。
結果から先にお伝えしてしまうと、保温しながら淹れたものは、決して美味しいと言えるものにはなりませんでした。
詳細、一つずつ見ていきたいと思います。
case1 蓋あり・保温あり
まずcase1。抽出中に都度IHに戻し、保温しながら抽出(蓋あり)した場合。
落ちきりタイムは2分10秒で、出来上がったコーヒーの温度は約81.3℃となりました。
一口目の香りや甘さの味わいは強くでているものの、アフターが短く余韻を楽しめないコーヒーに。
風味もフラットな印象が強く、時間が経つにつれてえぐみが増していく印象を受けました。
正直、抽出がうまくいったとは言えない仕上がり。
美味しいコーヒーとは呼べないものになってしまいました。
case2 蓋あり・保温なし
続いてcase2。ケトルの蓋を閉めたまま、保温はせずに抽出した場合。
落ちきりタイムは2分15秒、出来上がりの温度は76℃でした。
味の輪郭ははっきりとしていて、フレーバーもしっかり抽出できましたが、浅煎り特有の軽やかさはあまり感じられないコーヒーに。
後味で甘さの印象が長く続きますが、若干の苦味を伴うため心地よいものではありませんでした。
case3 蓋なし・保温なし
続いてcase3。ケトルの蓋を開けたまま、保温はせずに抽出した場合。
落ちきりタイムは2分15秒、出来上がりの温度70.5℃となりました。
ハーブやレモンなどのフレーバーと甘さのバランスがよく、飲み口も浅煎りらしい軽い印象に。
後味に爽やかな酸味を長く感じることができました。
今回の検証の中では、最も抽出が上手くいき、美味しいコーヒーと呼んで差し支えないものに仕上がりました。
なぜ保温しながら淹れると美味しくなくなるのか?
では、なぜこのような結果になったのか。
ケトルのお湯を保温した状態でコーヒーを淹れた時、一体何が起きているのか。
考察していきます。
以前、湯温と抽出の関係を掘り下げた記事では、高温ほど苦味や雑味といったネガティブな成分が出やすく、それらが入ることで甘さやフレーバーなどを隠してしまう、というお話をしました。
また、ハンドドリップ抽出のそれぞれのフェーズにおいて、出てくる味わいの成分が異なる、という検証も行いました。
結果抽出の後半になればなるほどネガティブな成分が出てくる、という内容でした。
これらの前情報を統合すると、今回の検証結果は説明ができそうです。
【case1:蓋あり・保温あり】では、雑味の出やすい抽出後半にも高い温度のお湯を当ててしまっていることになり、ネガティブな成分が多く出てしまったと考えられます。
逆に、【case3:蓋なし・保温なし】では、抽出後半になるにつれて、どんどん湯温が下がっていくので、自然とバランスのよい抽出になった、というわけです。
【case2:蓋あり・保温なし】の場合でも、湯温はだんだんと下がっていきますが、case3に比べると高めのままキープされたので、やや苦味を感じる仕上がりになったと考えられます。
ただ、この場合は抽出開始の湯温を少し低く設定してあげたり、注ぎ方を変えることで調節できそうです。
ちなみに、今回はもともと苦味の少ない浅煎りで検証しましたが、深煎りで試した場合にはもっと違いが大きくなります。
抽出レシピを再現する時には見落としがちかもしれませんが、意外と大事なポイントかもしれませんね。
湯温コントロールでより美味しいコーヒーを!
検証の結果、ハンドドリップ抽出中にはケトルは保温しない方が良い!という結論になりました。
湯温による差は非常に顕著でセンシティブ。故にコントロール次第で、より上級者、より美味しいコーヒーを淹れることが可能になります。
実際のところ、ハンドドリップの抽出を競う競技界などでは、抽出の前半と後半で使うケトルを変えて思いっきり湯温を下げる、という人もいたりします。
いろいろな抽出レシピを試す時、あまり上手くいかないと感じた時には、ケトルの蓋を開け閉めしてみるのもいいかもしれません。
ぜひご自宅でのハンドドリップでも試してみてください!
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WRITER
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Mayuka Jimbo
THE COFFEESHOPバリスタ・ストアサブマネージャー。
富ヶ谷のロースタリーROAST WORKSにてドリンクを提供。フードペアリング担当。レシピの改善や、抽出技術の向上に日々取り組んでいる。
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