コーヒーの『TDS』と『収率』とは?プロが教える 美味しさへの科学的アプローチ!|美味しいコーヒーの淹れ方 講座 No.2

2024.12.18
SHERE

多くの方がチャレンジしやすく、身近な〈ハンドドリップ〉。しかし抽出とはなかなか奥が深いもの…

ということで、より抽出理論を深掘りするハンドドリップ講座を用意してみました。

原理や抽出理論を知識として持っておくと、レシピのアレンジや修正・作成が可能になります。

今回は第二弾!〈TDSと収率〉がテーマ。

どちらもコーヒーの味を数値化したものであり、より美味しいコーヒー淹れるために知っておきたい指標です。

こちらの内容は、THE COFFEESHOP公式YouTubeでも公開しておりますので、ぜひ合わせてご覧ください。

そもそもTDSと収率って?|コーヒー抽出の数値を解説

コーヒーの抽出を考える上で避けては通れないのが、『TDSと収率』

あまり聞き馴染みのない方も多いと思います。

まずはそれぞれの数値の意味と、計算方法を確認していきましょう。

今回ご紹介する、TDSと収率を応用した〈ブリューレシオ(比率)〉については、下記リンクのマガジンでご紹介しています。

ぜひ合わせてご確認ください。

また、こちらの記事はハンドドリップ講座第二弾になりますので、前回の動画もご覧いただくとよりわかりやすいと思います。

TDSとは|Total Dissolved Solids 総溶解固形分

Total Dissolved Solids(総溶解固形分)の略称で、コーヒーの濃度や成分などを客観的に捉える際に使用する数値です。

出来上がったコーヒーに、コーヒー成分が何%溶け出しているかのかを計測した値で、コーヒーの濃度を数値化しています。

TDSの数値が高いとコーヒー成分の溶け出しが多く、濃度が高い・味の濃いコーヒー、TDSの数値が低いと濃度の低いコーヒーという結果で数値化が可能です。

それでは実際にTDSを計測してみましょう。

数値の計測には、専用の濃度計測器が必須になります。代表的なものは〈ATAGO(アタゴ)〉で、プリズムを利用した光の反射でコーヒーの濃度が測定できます。

あらかじめ抽出したコーヒーを計測した結果、TDS:1.10% Brix:1.39%となりました。

濃度としてはやや薄めの仕上がりでしょうか。

Brixとは、出来上がったコーヒーに含まれるショ糖の数値で、こちらも液体の濃度に関係します。

光の反射で計測するため、複数種類の検体を計測する際はできるだけ明るさが同一の場所で計測することが大切。

収率とは|コーヒー豆の成分をどれだけ取り出せたか

コーヒー豆からどれだけの成分を取り出すことができたかを数値化したものです。

収率の値が大きいほど、コーヒー豆から多くの成分を取り出せたことになり、効率よく抽出が行えたということになります。

一見TDSと混同しそうになるのですが、TDSは出来上がったコーヒーの濃度を測定しており、収率はコーヒー豆から取り出せた成分の多さを測定しています。

TDS数値 × コーヒー出来上がり量 ÷ 使用豆g数

で収率を求めることができます。(融解の限度は30%まで

TDSと収率の最適数値|美味しいコーヒーの条件

ここまでTDSと収率の数値的意味を解説しましたが、どちらもSCA(Specialty Coffee Association)により適正数値が定められています。

適正数値とは、出来上がったコーヒーを味覚だけではなく、客観的に評価できるよう定められた数値です。そこでは、

TDS:1.15%~1.35%
収率:18%~22%

となっており、競技会出場者や審査員は味の評価はもちろん、この適正数値も活用し抽出レシピの作成やジャッジを行っています。

実際にSCAで解説されているので、ご興味ありましたら下記リンクからご確認ください。

この内容を日本語で解説されている、粕谷 哲氏の記事も大変参考になるので、ぜひ合わせてご覧ください。

また、SCAからはTDSと収率の相関グラフも公開されており、どちらも適正数値の範囲である、表中央の黄色と紫の重なっている箇所が、数値化したときに美味しく感じるとされています。

1950年代のErnest Earl Lockhart博士による研究で作成されたもの。

多くのブリュワーが今なお活用していますが、現在は改訂版として3種類のチャートがSCAから発表されています。

適正数値の範囲に収まっていれば【必ず誰でも美味しいと思うコーヒーが抽出できた】のかと言われると、少々疑問が残ります。

特に消費者がお客様である場合は、この数値上だけでは判断できない〈味覚〉が誰しも違う感覚だということが大きな理由です。

数値が外れていたとしても、ヒアリングした内容から、可能な限り消費者へ寄り添った抽出を行う場合もあります。

しかし、自分の作成したレシピを数値的に判断する際には、チャートの適正範囲内に納める努力も必要です。

その際に注意しなければいけないのは、TDSと収率は条件によっては相関関係がなくなるという点です。

基本的に、TDS(コーヒーの濃度)が高いと収率(豆から溶け出した成分量)の数値も上がります。

しかし、使用する粉量を変化させた場合のみ、相互関係はなくなります。

例えば、粉量を増やした場合、TDS(コーヒーの濃度)は上昇しますが、収率は(豆から溶け出した成分量)下がります。

これは、お湯に溶け出せるコーヒーの成分に限界があるためです。

多くの粉を使用したとしても、使用するお湯の量を変えない場合、ある数値以上の収率は得られなくなるのです。

上記の理由から、出来上がったコーヒーの味からレシピを修正する際には、チャート内の相関関係に囚われすぎると、抽出レシピが完成しません。

粉とお湯の比率(ブリューレシオ)を決定後、TDSの濃度を適正にしていくことが、レシピ作成においては重要な作業になります。

まとめ|数値がわかると抽出理論がわかる

少し専門的な内容でこんがらがることも多いと思いますが、数値化する際の元が(分母)が、液体(コーヒーなのか)豆なのかを念頭に置いておくと、理解しやすいかもしれません。

また、私個人的には、TDS値(濃度)が味全体の印象を決定するとも考えています。

出来上がったコーヒーの濃度は、最後まで美味しくコーヒーを飲めるかという点でとても重要だからです。

ハンドドリップ講座 第一弾では、コーヒー成分には出てくる順番があると確認しました。

抽出前半は酸味や甘さなど味の核になる部分、後半に苦味や渋みなどの溶け出しが確認できましたが、収率を上げようとお湯の量を増やすと、より後半にでてくる成分を抽出することにもなります。

収率を下げると逆の現象が起こり、抽出前半の成分が優位です。

実際にはもう少し複合的な要素がからむのですが、上記の収率の観点を踏まえると、甘さや質感優位のコーヒーを淹れるには収率を上げる、酸味やフレーバー優位なコーヒーを淹れるには収率を下げることで、調整が可能です。

ぜひ一度お試しください!

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抽出をリアルタイムで見れる”Brew Timer”や、最新コーヒー器具の紹介、定期便でお届けしたコーヒー豆の内容をライブ配信でご紹介など、続々更新中!

今回の内容も動画で公開中なので、ぜひご覧ください!

WRITER

Mayuka Jimbo

THE COFFEESHOPバリスタ・ストアサブマネージャー。

富ヶ谷のロースタリーROAST WORKSにてドリンクを提供。フードペアリング担当。レシピの改善や、抽出技術の向上に日々取り組んでいる。

毎週日曜8:45〜はInstagramとYouTubeで15分間のライブ配信中!

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