アジアのコーヒー農家と関わり方|坂ノ途中様インタビューvol.2

2019.03.30


百年先も続く農業を。というコンセプトのもと、農薬や化学肥料に頼らない環境負荷の小さい農業の普及を行なっている『坂ノ途中』様インタビュー。後半では、実際にどのように農家の方と関わっているのか、伺いました。

ロースター萩原:
栽培、精製、販売、輸出っていう工程は色々あると思いますが、具体的にはどのように関わっているんですか?

安田さん:
ざっくりいうと3つで、まずは適切な価格の販路を見つけること。次に技術のサポート。あとは資金面のサポートです。例えばコーヒーの生産って、とてもキャッシュフローが悪くて、農家さんから豆を買って、加工して、輸出もしくは販売してってなるので、お金になるまでに何ヶ月もかかるんですよ。

僕たちは、そこに資金面で投資しています。投資というか前払い、に近いのですがサポートした分を後からコンバートしてもらう形ですね。それと、技術のサポートっていう面では、種を植えるところから一緒に手伝うこともあります。農家さんをまわって、そもそもコーヒーとは何か、苗づくりとは何かとかもしっかり話して、付き合っていきます。

ロースター萩原:
キャッシュフローはたしかにそうですね。最終消費までめちゃめちゃ遠いですもんね。

安田さん:
農家さんとしてはできるだけ手間なく高く売りたいっていうのがあるんですけど、それを安易に考えてしまうと、先細りになっていってしまいます。例えば、コーヒーチェリーって、熟す前の緑の状態で収穫しちゃった方が早く収穫できるわけですが、熟すまで待った方が一粒あたりの重量が重くなるので、一本の木から取れるチェリーの総重量も重くなるんです。

コーヒーは、重量単価で流通するので、熟すまで待った方が、農地当たりの収穫重量が多くなり、結果としてお金も稼げるようになる。そんなことを色んな伝え方で、あの手この手でやるのが重要かなって思いますね。

ロースター萩原:
結果的にお互いが得をする。winwinになるようにサポートをしているんですね。やっぱりバイイングのところがすごく大きいんですね。そこがサポートができる人だったり企業だったりはまだまだ少ないと思うので、安田さんには頑張ってほしいですね(笑)

安田さん:
頑張りたいですね。農家さんたちと仲睦まじくできてるかっていうとそうではなくて、結構戦うことも多くなります。マーケットの現状を踏まえて、この価格だと日本では売れないということを明確に伝えないと、農家さんにとってもよくないですし、できることできないことっていうのはしっかり伝えていくことが誠実なのかなと思ってやってはいますね。土地の条件や経済状況などで変わってくるので、テンプレートというかフォーマットはないですから。

スペシャルティコーヒー発展のためのジレンマ

農家さんにとって本当にいいことは何かを、常に自問自答をしているという安田さん。持続可能なコーヒーを実現するために、長期的に見る視点と環境に対する視点が重要だと語ります。

安田さん:
国が介入しているために価格が上がって、国外に持ち出せないってことがあるんですけど、そのよかれと思ってやったことがどうなのかなと思うことはありますね。例えば、農家さんたちに熟度をそろえてくれたら高い値段で買うっていう人と、品質が低くても安く買うっていう人。この2つは共存するんですけど。このちょっと間くらいに、多少悪くても同じ値段で買うよっていう人が来ることがあるんですよね。

それが国からの援助金があれば成り立つってなると、当然農家さんは品質を下げちゃうんですよ。でも、それは長期的に見て果たして良いことなんだろうかって。その長期的な視点っていうのが時々欠けるなって思います。

ロースター萩原:
アフリカとかで一時期はやったフェアトレードも、似たような問題があると言われていましたよね。スペシャルティコーヒーの条件は、品質とトレーサビリティーってよく言いますけど、いまやもう経済的な面を加えた3つの柱になっているなというのは感じます。

コーヒーの2050年問題とかありますけど、サスティナビリティ、持続可能なコーヒーを実現するために環境面の取り組みとして、なにかやってらっしゃいますか?

安田さん:
そうですね。品質って言った時にもちろん美味しさが一番に来るんですけど、品質っていう言葉の中に環境ですとか、地域のコミュニティってところも入って来た上での、全体的なトータルでの品質。そこに価値が乗ってくるっていうのが真の在り方かと。

環境面の取り組みとしては、カスカラなど今まで利用してこなかった資源の活用とか、精製工程ででる廃水の処理をどうするかってところの相談ですかね。コーヒーだけじゃなくって、コーヒーと一緒になにをするかっていう提案を僕たちはしていきたいなって思ってます。

あとは、環境を守っていくために農家さんの森の価値を上げていくっていうことで、養蜂の事業も挑戦したりしてるんですよ。コーヒー農園の森で養蜂しませんかっていう。コーヒーだけを見てると環境目線がなくなってしまうので、大きな目で農家さんたちの生活を見るっていうことをやっていますね。

農業って自然を相手にするので予期せぬことの連続で、継続することがとても難しいんです。例えば今年は、ラオスの村で、深刻な虫害が発生したり大雨で畑が流されてしまいました。

問題が起きてしまった時に、その村から別の村に乗り換えるのではなくて、一緒にこの課題をどうやって解決していくかを考えようとしていて。そういうところの継続する意味の難しさを、今年は改めて痛感した年でもあります。

ロースター萩原:
スペシャルティコーヒーはいいものをちゃんとした適正な価格で買うっていうのが、生産者の人たちにとっても収入の安定につながるし、すごくいいことだと思います。お客様にはいいものを飲んでほしいし、適切な価格で飲んでほしい。

でもスペシャルティコーヒーって、自社で農園持つのはリスクがでかすぎるので、御社のようにやってるところから買いたいと思うし、一緒にやれたらいいなって思いますよね。

安田さん:
そう言っていただけてありがたいです。でも、自分たちだけでできることって少なくて、日々迷うことばかりですよね。ロースターさんやお客さん、みんなと一緒に考えていきたい。 例えば、色んな条件下によって違いが出るっていうリスクを最終的にはだれが取るかっていうこと。どうしても農家さんばっかりにリスクのしわ寄せが言ってることって多いと思います。

リスクをとる、っていうと身構えてしまいますが、野菜でも同じなんですけど、ブレをどう楽しむか、楽しめるかっていうテーマに置き換えて考えることもできると思うんです。初夏のナスと秋口のナスって違いますよね。そんなに皮が堅くなったもの出さないでよって言うのではなく、逆にゆっくり育って中身はしっかり詰まってるからじっくり焼いたら美味しい。料理の工夫次第でそのブレをプラスに変えようっていう消費の在り方をお伝えするというのもあるなと思っていて。情報の編集でどう楽しんでもらうかですね。

ワインのヴォジョレーっていい例なのかなと思ってて、違いを楽しむことの完成形なのかもしれないですよね。毎年味は違って当然、それをお祭りにしちゃって楽しもう!みたいな。違いを楽しんでもらうっていうのもそれこそ選択のひとつとしてあってもいいのではないのかと。まだどうすればブレを楽しんでもらえるのかは見つかってないんですけど、お客さんに提案してみようかと。意外と楽しんでもらえると思うんですよね。

焙煎によって広がるスペシャルティコーヒーの多様性

焙煎度によって、コーヒーの味はもちろん変わってきます。深煎り浅煎りといった焙煎度合い次第で、同じスペシャリティでも色々な味が楽しめる。消費者に向けて、味の多様化が必要になってきそうです。

安田さん:
その素材をどう美味しくするかは焙煎次第なので、料理人みたいですよね。だからこそ、焙煎していただく方にこの豆はこうなんですっていうバトン渡しをもっと丁寧にしていきたいと考えています。農家の人とバイヤーさん、バイヤーさんとロースターさんのコミュニケーションがもっと増えれば、表現の幅が広がると思うんです。

ロースター萩原:
結局僕らが買うときって、サンプル入手して飲んでみてってやるんですけど。これ飲んでみてってただ渡されるのと、今年の出来を踏まえてこれがいいと思います。あるいはこういうのありますかってオファーして、だったらこれがありますよっていうコミュニケーションがあるのとないので、全然違うなと思いますね。

安田さん:
もともとコーヒーの焙煎ってすごくクローズドなもので。オープンになり始めたのも最近なんですけど、技術や知識だったりがクローズドな分、考え方もまだまだ浸透してないなっていうのがどうしてもあって、難しいですね。僕らみたいな仕事は、昔だったらできてないってよく言われるんですけど、今は新しい価値を見出してくださる方がたくさんいるので、良い時代だなって思います。

ロースター萩原:
多様性っていうのは、コーヒーだけに関わらずいろんな側面で当たり前になってくんじゃないかなとは思います。

直近もそうですし、3年5年10年っていうスパンも含めて、これからどういうことに取り組んでいきたいと思ってらっしゃいますか?

安田さん:
まずはとにかくできることを増やしたいなと思っています。1つ目は、オークションなどを通じて、そこでしか採れない本当に希少な品種など、本当の価値を適正に評価してもらえる仕組みを作ることです。2つ目は農家さんと消費者を直接つなぐコミュニケーションの手助け。あとは産地国内のマーケットがあるところには、日本への輸出だけでなく、産地国内で売ってみてはどうかっていう提案などですね。

産地国内販売のサポートって、僕たちのビジネスとしては噛まなくていいとこでもあるんですけど、やりたいなって。村にいる人たちが、自分たちで焙煎して自分たちで観光客の方達に売ってもらうとかできれば、とてもいいなと思います。コーヒーづくりの利幅を考えると、特に小規模農家さんが村にカフェ作るっていうのが、一番いいなって思うんですよね。

ロースター萩原:
常に生産者目線というか、一貫したブレないものがありますよね。そこが素晴らしいところだと思います。今までコーヒーを飲まなかった国の人たちが、経済や文化の発展とともにコーヒーを飲むようになってきて、生産国での消費っていうのが必然的に増えてくると思いますし。

安田さん:
消費者の方には、アジアのコーヒーのポテンシャルをもっと感じて欲しいですね。もう1つは変化を楽しんで欲しい。今飲んでいるコーヒーが来年になったらもっともっと美味しくなっているかもしれないし、そういう変化を楽しんでもらいたいです。

今から伸びていくんだぞっていう、インディーズのアーティストを応援する気持ちで、チェックしておいてもらえると面白いのかなって。一緒に作ってもらうという感覚を持ってもらえたら嬉しいですね。

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