スペシャルティコーヒーとは:生産処理におけるコーヒーチェリーの重要性について。

2015.12.17


スペシャルティコーヒーWinter Glow/Tim Lucas

スペシャルティコーヒーを初めて飲んだ時どんな印象だったか覚えていますか?
体験された方のほとんどは、想像していたコーヒーの味を上回る味わいに驚きます。その風味の豊かさや特徴的なフレーバーに目が行きがちですが、クリーンさにもぜひ注目していただきたいと思っています。コーヒーと言うと目の覚めるような濁った、渋い味のイメージですが、スペシャルティコーヒーは綺麗な酸味、深い苦みを持ちながら、すっきりとした飲み物です。

この感動を体験できているのも、コーヒーチェリーの選別には生産者の並々ならぬ努力があったからです。コーヒー豆の種類は3つの○○で特徴が見極められる!という記事でお話したように、コーヒーが生豆になるまでには、生産地や生産者によって様々な「生産処理」といわれる過程を経ていて、その過程によって様々なコーヒーの味わいが作られている、というところまでは、おわかりいただけていることと思います。
今回は、それらの生産処理全てに通じる「選別」という大切なことをお話したいと思います。

生産処理過程で熟したチェリーのみを選別

Picking by selectionPicking by selection / Dennis Tang

水中での浮き沈みで糖度と実の詰まりを選別する比重選別

コーヒーの収穫のお話のときに完熟したコーヒーチェリーだけを集めるのが大切、とお話しましたが、完熟したものだけを選んで収穫していても、実は中身が無かったり、虫に食われていたりするコーヒーチェリーもあります。

そうしたコーヒーチェリーはコーヒーの味を阻害する原因になってしまうので、なんとかして取り除かねばなりません。例えばパルプトナチュラルやフリィウォッシュトといった生産処理では、集めたチェリーを一度水に漬けたり、水流で流していくことによって浮くものと沈むものに分けます。

沈んだものは完熟して糖度が高く、中身の詰まっているチェリー、または中身が詰まっていても未熟なもので、浮いたものは何らかの原因で中身が無かったり、熟しすぎて乾き始めているチェリーです。これを比重選別と呼びます。

美味しいコーヒーになる可能性のあるものは、沈んだものの中に多く含まれます。しかし沈んだものの中にも、まだ完熟したものと未熟なものが混じっています。チェリーの比重選別だけではじゅうぶんではないので、次の段階でさらに選別します。

pulperEcco/pulper

柔らかい完熟したチェリーをパルパーで選別

比重選別を終えて、パルパーにかけられているコーヒーチェリー。下から果肉を剥かれパーチメントが出てきています。チェリーから果肉を除去する機械「パルパー」は、柔らかい完熟したチェリーだけ果肉を剥がすように強さを調節しておくことができます。これによって、まだ固い未熟なチェリーは果肉を剥がされることがありません。

果肉を除去された完熟チェリーは、「パーチメントコーヒー」と呼ばれ、乳白色の殻に生豆が覆われている状態です。さらに、そのパーチメントコーヒーを、水路を進む過程で比重によって選別していきます。基本的には重いものほどいいものとされていますね。それらを分けて、乾燥させていきます。

さて、水を使ったフリィウォッシュト、パルプトナチュラルについてはパーチメントの状態に至るまで、ここまでお話したような何重もの選別方法が取られていますが、コーヒーチェリーをそのまま乾燥させる「ナチュラル」は、コーヒーチェリーの見た目と、最初に行うコーヒーチェリーの比重による選別で分けるしかありません。だから、美味しいナチュラルコーヒーを作るのは難しいと言われています。

不完全なパーチメントを取り除く乾燥中の選別

bean-dryHugo Jammet /IMG_6699

乾燥中のパーチメントコーヒー。次に大事なのは、乾燥中のパーチメントコーヒーの選別です。ここまでくぐり抜けると素晴らしいコーヒーになる可能性の高いのですが、パーチメントに果肉が付着していたり、パーチメントが割れてしまっているものは取り除かなければいけません。それらもまた、品質を落とすリスクがあるからです。

coffee-picking Coffee beans / Koen van Seijen

良くないパーチメントコーヒーを取り除いている様子。
補足ですが、ここでもコーヒーチェリーをそのまま乾燥させるナチュラルコーヒーは選別が非常に難しいです。果肉がついたままなので、見た目で区別するのが非常に困難なのです。

選別の積み重ねがトレーサビリティを可能にする。

coffee-imgBLACK COFFEE / david pacey

スペシャルティコーヒーにおいて重要なもののひとつは、「トレーサビリティ」というものです。日本語に直すと「追跡可能性」といわれますが、要は、どこで・どのようにして、一杯のコーヒーが作られているかがわかる、ということです。

ここまで述べたような生産処理過程での管理がしっかりしていればいるほど、必然的にトレーサビリティが高くなる、ということです。そしてひとくちにコーヒーといっても、全ての選別をくぐり抜けた1級品から、そうでない品質のものまでが、集められたコーヒーのひと山から作られる、ということも見逃してはなりません。

選別そのものにかかるコストも、積み重なると無視できないものになるのは、想像に難くないですよね。THE COFFEESHOPにあるコーヒーは基本的に、ここまで述べたような選別をくぐり抜けた一級品ばかりです。

そこまでこだわって作られたコーヒーは、作った過程がしっかりコーヒーの味に反映されていて、それぞれ違いのある、非常に個性的な輝きを放っています。1杯の美味しいコーヒーには、そこに至るまでに様々な厳しい過程を経ています。それを抽出する私たちは、やはり美味しいコーヒーを美味しいコーヒーとしてお出しする、という責任があります。

考えだすとまとまらなくなってしまうのですが、何気なく手にしてくださった私たちのコーヒーには、実はこんなにも手がかかっているんですよ、ということを時々でいいので、思い出していただければ嬉しいです。


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